第4話 肯定されないのが許せない男

 姪が誕生日を迎えるにあたり、マザコン野郎は贈り物として色紙にイラストを描くと言った。色塗りに関してはシロウトなので、私にアドバイスして欲しいとも言ってきた。

 一作目、マザコン野郎はド派手な赤文字で「◯◯ちゃんおめでとう」と書いた。筆で描いたイラストの周りには何も色が塗られていない。ひときわ太く書いたせいで文字はほぼ潰れており識別自体が困難だった。

 マザコン野郎は文字がドンと目立つようにしたかったと訴えていたが、何と書いてあるか読めないものを贈るわけにはいかない。

 私はマザコン野郎が持っている画材を確認し、文字はピンク、イラストの周囲には黄緑を塗るよう提案した。マザコン野郎は頷いて、数日後に二作目を見せてきた。

「これを持っていってね」

 完成品として渡してきたのは『赤文字のまま』『筆でイラストの周囲にヨゴシを入れた』ものだった。

 私が一作目を見て直すよう言った部分をまるきり無視していたのだ。

 赤文字では潰れて読めない、幼い子供への贈り物なのだから柔らかい色を使えと「なぜ再提出を求めたのか」丁寧に説明した意味がまるでなく、心から怒った。

 マザコン野郎は「どうして君にそんなことを言われないといけないんだ?」という不機嫌なツラをしていたが、しぶしぶ私の意見を取り入れた三作目を作った。従わなければラチがあかないから仕方なく「やってあげた」と言わんばかりの態度だった。

 私はそれを姪の元へ持っていったが、マザコン野郎と会話が噛み合わない事実に直面した後だけに、祝いの席でもあまり晴れ晴れとした気持ちにはなれなかった。

 思うに、マザコン野郎が最初に言った「アドバイスして欲しい」という言葉は、本当に改善点を指摘して欲しかったのではない。

 あくまで建前にすぎず、実際には「自分の意見は絶対に正しいので肯定され褒められるべき」と考えていたのだろう。

 子供っぽい浅はかな思考だし、全肯定されるようなセンスでもなかった。

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