第3話 新婚の夫が部屋に引きこもる

 マザコン野郎は日曜日以外働いていた。一人暮らしの頃はコンビニ飯と外食ざんまいだったという。結婚後、ごく当たり前のように私が夕食を作ることになった。

 相手が忙しいのだから仕方がない、とある程度割り切って主婦業をこなした。だがマザコン野郎は新婚家庭で奇妙な行動ばかり起こした。

 まず、仕上がった夕食のおかずを毎回必ず嗅いだ。外食の際には一切やらなかったのに、自宅で急に犬のような行動に出られてギョッとした。

 見慣れない食べ慣れないものだったから、と言い訳をしていたが、こちらがやめろと言ってもありとあらゆる食べ物を嗅ぐ。

 こちらを信用していないようだったし、あまりの見苦しさに姑に愚痴った。姑に指摘されると、マザコン野郎はあっさりやらなくなった。

 次に、夕食と入浴を終えると自分の部屋に引きこもって就寝時間まで出てこなかった。

 マザコン野郎の自室にはリビングに設置しているものよりも数倍大きなテレビが備え付けてあり、ビデオレコーダーもそこにしかなかった。PCでゲームもしていた。そして、私が自室へ入ることを何よりも嫌った。

 一人暮らしの時の習慣を結婚後も何ら変えようとしなかったのである。これは先ほどの犬めいた行為よりよほど問題だったし、結局最後まで改善されなかった。

 マザコン野郎には自分の他にもう一人、人間が住んでいるという感覚がなかったのだろう。飯炊きと掃除と洗濯を代わりにやってくれる都合のいいものが住み着いた。その程度の感覚しかなかった。

 寝室は一つだったが、そこに同衾という雰囲気は少しもない。マザコン野郎は深夜にソロソロと寝に来るだけだった。

 同棲どころかルームシェア以下のつながりしかないこの状態が、俗に言う新婚とあまりにも結び付かず、隠れてよく泣いていた。

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