不可思議笑噺
きゃっくん【小奏潤】
第1話 この世界を気に入っている【完】
バレンタインデー。
もともとはキリスト教徒のお祝いらしいが、
ここ日本では、恋人の行事となっている。
「ちっ、リア充が」
オレはいちゃつくカップルを横目に毒を吐いた。
ここは笑いの街、大阪。何しに来ていたかというと観光に来ていた。
笑いの街だからバレンタインとは、無縁だと期待していた。
「お兄さん、今ヒマ?」
「んあぁ? ヒマだけど」
「ちょっとお茶しばかない?」
こんなバレンタインデーに逆ナンか。
物好きもいるもんだなと思いつつ、彼女の放った言葉をふと思い返した。
お茶しばかない?
え? お茶をしばく?
お茶って水分だよな。
ケンカ売ってるのか?
それとも逆ナンなのか?
「お茶しばく?」
そんなことを考えていたら、思わず言葉が出た。
「あぁ、お兄さんも大阪の人だと思っててんけどなぁ」
「大阪の人はお茶しばくっていうの?」
「人によるけどね、方言やね。私はふざけて使ってるねんけどさ」
そこに1台の車が遠くのほうに見えた。
ヘッドライトがまぶしい。
何かがおかしい、あの車。
蛇行運転にもほどがある。
飲酒運転か? 居眠り運転か?
どっちにせよ危ないよなぁ。
逆ナンしてきた女の子はオレが遊んでくれないとわかったのか、
その場をすでに後にしていた。
しかし、この道を歩いてる人はオレと彼女以外にいない。
さっきの車の運転手がハッとしたようだが、このまま走っていると
逆ナンしてきた彼女を轢いてしまう。
発動条件はそろっている。
誰かの命の危機、それをオレが救いたい。
そう思っている時に発動する能力と、あの“神”とやらは言っていたな。
「アッシラー!!」
アッシラ―は自分の思った位置に瞬間移動できる能力だ。
そう、オレは異世界から転生してきた人間だ。
もとの世界に戻るつもりはない。
あっちの世界ではオレは鈍足でかなり体型も太っていた。
この世界では死ぬまで太らない能力と“アッシラ―”の2つの能力を授かって転生してきた。
だから、“神”と名乗る人物から聞いた情報くらいしかオレには大阪の情報はなかった。
今まで、この能力を使うことはなかった。
と言っても、ふだんは会社員をしているのだが、
この国の法律で有給休暇は年に5日は使いましょう、ということなので、
それで笑いの街に一度行ってみたかったのもあるので、ここ大阪に宿をとって観光していた。
話を戻して、アッシラーで逆ナンしてきた彼女のもとへと移動したが、彼女を突き飛ばした。
そこに車がオレの目の前で止まった。
「よかった」
彼女もよく状況が理解できていなかった。
しかし、車の運転手は目を輝かせていた。
いや、あなた、交通事故寸前よ?
むしろ、飲酒か居眠り運転よ?
運転手は車から降りてきて、
オレに謝る前に、名刺を差し出してこう言った。
「私は、『摩訶不思議研究所』という研究所のリーダーです。
摩訶不思議研究所というのは、この世ではありえないことを研究する機関です。
大きな声では言えませんが、一応国から出資金もらっています。
でも、研究所が発足以降20年何も起こらず、そろそろ国からの出資金を打ち切られそうなんです。
ぜひ、我々の研究材料に!! 報酬は弾めませんが、ぜひ!! さっきの高速移動の原理を研究させてください!!」
「あはは、オレにそんな力はないですよ」
「さ、いいから車乗って!!」
その後、オレは血液検査やCT検査にMRI検査など様々な検査を受けた。
どこにも異常がないということで解放された。
いや、ただの健康診断じゃねぇかよ。
オレの有給休暇を無駄にしやがって、くそ。
でも、なんだかんだ、この世界を気に入っている。
不可思議笑噺 きゃっくん【小奏潤】 @kokanade_jun
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