第33話 地味ダサ女を愚痴愚痴虐めていたら頬を引っ叩かれました
「ちょっと何叫んでいるのよ。私よ、私」
私は慌てて地味ダサおんなの口を塞いだ。
この地味ダサ女、美貌の私の顔を見て叫ぶなんてなんて奴なのよ!
叫ぶなら自分の地味顔見て叫びなさいよ!
「幽霊じゃないんだ!」
「当たり前でしょ」
脅かした私が悪かったかもしれないけれど、普通は叫ばないわよね!
「おい」
「どうした?」
「いま悲鳴が聞こえたぞ」
離れた寮の電気が明々とつく。
「ニーナ、どうしてくれるのよ」
私はムッとして地味ダサ女を睨みつけた。
「えっ、だってライラが驚かすから」
この美貌を見て驚くな。それは美しすぎて驚いたならわかるけれど。
「これ、洒落にならないわよ。こっちよ」
「えっ、ちょっと」
「あなた、皆に捕まってペトラ先生の補講受けたいの?」
「それはいや!」
私は地味ダサ女を連れて逃げ出したのだ。
「はっはっはっ」
走り疲れて私は死にそうだった。でも、地味ダサ女は田舎者らしく全く息も上がっていない。連れて逃げた私がダウンしたのだ。
お貴族様の私と平民風情はやっぱり違うんだ。
「もう、ライラが驚かすから大変だったじゃない」
私の顔を見て驚くな!
「何、いっ、て る の よ。あんたが、大きな、悲鳴上げるからでしょ」
息を切らしながら私が叫ぶ。
「そんな事言っても、あなたの血まみれの顔を見たら普通悲鳴上げるわよ」
「えっ?」
私は慌てて手鏡を取り出して見ると、確かに血まみれだった。
ギャーーーー
私の美貌が……
さっき、慌てて飛びだして来た時に本棚で顔を打った時に鼻血が出たのだ。
夜で良かった。見たのもこの地味ダサ女だけならまだ許せる。
しかし、この美貌を慌てて血まみれにさせたのはこの地味ダサ女だ。
全てこいつが悪いのだ!
「ちょっと柱に鼻を打ち付けて、鼻血が出ただけよ」
顔を拭きつつ、私は言った。
でも、本当にこいつはムカつく。
「あなたよくも私を裏切ってくれたわね」
私は地味ダサ女を睨みつけた。
「だって会長とウィル様が同じだって知らなかったんだもの」
何かふざけたことを地味だと女は言ってくれるんだけど。
「何言っているのよ。そんなの見ただけで判るじゃない」
「じゃあ、あなたも判っていたんじゃない。ウィル様と会長が同一人物だって知っていたんでしょ」
地味ダサ女が反論してきた。こいつでもそれは判るんだ。まあ、そこは確かに。
「それはまあ」
流石の私も口を濁した。
でも、普通誰でも、王子様とウィルが同一人物だって見れば判るのだ。
だって髪の色と瞳の色を変えたただけで、後は全く同じなんだから。
わからなかったこいつが悪い。
「それこそ酷くない」
「ふんっ、何言っているのよ。私は物心ついた時からずっと王子様のことを思っていたのよ。後少しでうまくいったのに、全部アンタに邪魔されて、絶対にアンタを許さない」
私は仁王立ちになって言ってやったのだ。
「アンタも転生者なんでしょ」
私は今まで思っていたことをはっきりと言ってやった。
「えっ、転生者って?」
地味ダサ女は目を泳がせて誤魔化そうとするがそうはいかない。
「誤魔化しても無理よ。何が『痛いの痛いの飛んで行けよ』そんな子供にするおまじない、この世界にはないわよ」
その言葉に地味ダサ女が観念したように私を見た。
「えっ、じゃあ、あなたも前世の記憶があるの?」
「そうよ。アンタと同じでね。このゲーム『カルドアヴィの聖女』は何度もしたわ」
私は告白したのだ。
「えっ、これってそう言うゲームだったの?」
なのに、地味ダサ女はまだしらばっくれている。
「何言っているのよ。しらばっくれないで。アンタも何度もやったことあるんでしょ。『カルドアヴィの聖女』を。ニーナなんて隠れキャラがいるのは知らなかったわ」
そう、そんな隠れキャラがあるなんて知らなかった。ネットにも載ってなかったのに。
「えっ? 私はそんなゲームをやったことはないわ」
まだ言うか!
「しらばっくれないで。本来はアンタがヒールしたところで、ヒロインの私がヒールを発動して私の王子様と仲良く慣れるはずだったのよ。それを想定外の隠れキャラのあんたが私に代わってヒールしたんじゃない。
あんたにはまんまとやられたわ」
私は自嘲した。本当に馬鹿だった。こいつの見た目にまんまと騙されたのだ。
まさか頭の良いと皆に褒められていた私が、こんな頭の弱そうな地味ダサ女にしてやられてしまったのだ。
「アンタには色々出し抜かれていたけれど、最後は私が聖女になるはずだったのよ。なのに、あなたにいいところを全て持っていかれて、本当に最悪よ」
こんな地味ダサ女に負けるなんて…………
「私のことが本当に馬鹿に見えたでしょうね。自分よがりにいろいろやって、挙句の果てに聖女にもなれなかった馬鹿な私を。本当に最悪だわ」
つくづくこんな地味ダサ女にしてやられるなんて……
私の一生の不覚だった。
見た目に騙されたのだ……
「何言っているのよ。ライラ。私はあなたと違って、平民なのよ。会長の横に立つ資格はないじゃない」
こいつ、更に私の傷口に塩を擦り込んでくるんだけど……
「よくそう言うことが言えるわね、あなたは聖女なのよ。聖女だったら王子様の横に立てるじゃない」
くっそう、言っているうちに更に頭にきた。
でも、ここから、こいつの良心に訴えかけてやる。
もっとも、この図太い地味ダサ女に効くのか……
そうだ。こんな良心の欠片もないやつに効かないんじゃ……
いや、ライラ、言ってやるのよ。こいつの前で。
「可哀想なマイラ様」
私は盛大なポーズをして言ってやった。
「マイラ様?」
馬鹿な地味ダサ女はいきなりの話題の転換に付いてこれなかったみたいだ。
「あなたが王子様に間違われてキスされた相手よ」
私は間違えての所を強調して言ってやった。
「ああ、会長の幼馴染っていう」
「何しらばっくれているのよ。ゲームしていたら知っているでしょ。
マイラ・カンガサラ侯爵令嬢。昔から殿下の幼馴染で、殿下の婚約者候補の筆頭と言われていたわ」
「何故婚約されなかったの?」
「あなたも聞いたでしょ。マイラ様が病気だって。肺の病なのよ」
「肺の病?」
知らないふりして白々しい。
「あんたが入学するまでは殿下も良くお見舞いに行っていたみたいだけど、今学年になってからは殆ど行っていないみたいよ。どのみちあんたが見舞いに行くなって言ったんじゃないの?」
「そんなの知らないわよ」
「よく言うわ。マイラ様はもうすぐ死ぬのよ」
「はっ? 何言っているのよ。ライラ」
「知らないとは言わせないわ。ゲーではサマーパーテイーの前に死ぬんだもの」
「えっ」
こいついつまでカマトトぶるつもりだ。でも、私は最後の力を振り絞ってこいつの殆どない良心に訴えてやる。
というか、トラウマにしてやる。
病弱なマイラ様から王子様を寝取った女として、いや史上最悪の悪役令嬢としてこの国の歴史に残るほど噂を捏造……いや、真実のようにしてこの国中にハナミ商会の力を使って広めてやるのだ。
皆から後ろ指さされた悪役令嬢として一生涯苦しむのだ。
私は噂されて泣き叫ぶ地味ダサ女の将来の姿を想像して溜飲を下げたのだ。
「ちょっとライラ、知っているなら助けなさいよ」
いきなり、地味ダサ女が言い出したんだけど。
「どうやってよ。この世界ではその病気は死病なのよ。薬も無いのよ!助けようもないじゃない」
何格好つけようとしているのだ。
「あんたも死んでくれた方が好都合でしょ。そうしたら殿下の隣に建てるじゃない」
そう言われて流石の図太い地味ダサ女もショックを受けたみたいだった。
「ふん、図星だったみたいね。マイラ様が病床の中で殿下のことを思っているのに、自分だけ殿下を独り占めにして、さぞいい気分だったわね」
私は地味ダサ女に言ってやったのだ。
しかし、しかしだ!
次の瞬間
パシンッ
私は地味ダサ女に思いっきり張られていたのだった!
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