第28話 癒やし魔法を使って聖女になるはずが、地味ダサ女が聖女になってしまいました
私は地図の修正をアクセリと共に私達の全グループ120名全員分をさせられたのだ。
私はほとんど半分の60名分。
手も疲れてくるし、細かい作業だから目も疲れてくる。
本当に大変な作業だった。
「誰なんですか? 間違えた地図持ってきたのは!」
せっかく王子様と話せる機会を潰された恨みもあって私は聞いていた。
「申し訳ないな」
アクセリが謝ってくるんだけど。でも、こんな間違いを細かいアクセリがする訳はない。
何しろ、その細かさは、針で重箱の隅を突くようなアクセリなのだ。
「ちょっと、アスモも、もう少しちゃんとして欲しいよな」
一緒に手伝ってくれた三年生が言ってくれた。
「仕方がないだろう。アスモは今はそれどころではないんだし」
思わずアクセリが漏らしてくれた。
「アスモ様はどうかされたのですか?」
私は思わず聞いていた。
「いや、まあ、ちょっとな」
アクセリが誤魔化したが、私は知っていた。
アスモと王子様の幼馴染のマイラ・カンガサラ侯爵令嬢の容態が良くないのだ。
彼女はゲームではサマーパーテイーまでに死ぬのだ。
その死にショックを受けたアスモをヒロインが慰めて二人は結ばれるという設定だ。
そうか、そのアスモの尻拭いを私達がさせられているのか……
でも、恋い焦がれる相手が死にそうな時に、それを責め立てられるほどさすがの私も鬼畜ではなかった。
でも、それが終わったのは就寝時間の手前だったのだ。
流石の私も疲れ切ってテントに戻った。
テントの仲間は二年生の二人と地味ダサ女だ。
この女は私のいない間、結構私の王子様と話していたみたいだ。
それはそれで許せなかった。
「ニーナ、あなたね。私の王子様と仲良くしすぎなのよ」
私はそう言うと、地味ダサ女にヘッドロックをかけてやったのだ。
ギャアギャア叫ぶ地味ダサ女は無視だ。
でも、駄目だ。最後まで出来ない。
私はそのまま、疲れ切って寝落ちしてしまったのだ。
翌朝は4時起床だった。
当然地味ダサ女は見学にさせた。
私は甲斐甲斐しく今度こそ誰にも邪魔されずに、いやいや、二年生の二人に邪魔されたが、王子様の横で料理作りに邁進したのだ。
「うまい飯が不味くなると困るからな」
地味ダサ女はアクセリに酷いことを言われていてむくれていた。
「何なら練習に付き合ってやろうか」
「殿下。そんな娘の食べたらお腹壊しますよ」
付き合う発言した王子様に、私は釘を刺してやったのだ。
後少しだ。後少しで私の王子様が私に返ってくるのだ。
王子様ら三年生の5人を先頭に私達はダンジョンに入った。
「これがヒカリゴケだ」
王子様が金色に輝いているコケを指してくれた。
「アッ、本当に金色に輝いているんですね」
それに地味ダサ女が反応してくれるんだけど、私の邪魔しないでよ。
「はい、じゃあ採取します」
私は地味ダサ女を強引に押しのけて、王子様との間に入ってヒカリゴケを採取袋に入れていた。
「殿下、あちらの光っているのもヒカリゴケですか?」
私はその先の赤い光を見ていった。
林の中から赤い光が動いている。
いや、あれは違うはずだ。私には確信があった。
ついにその時が来たのだ。
「えっ、いや、あれは」
王子様が言い淀んだ。
「ムーンウルフだ」
真っ赤な目を光らせた狼型魔物の大群がゆっくりと林から現れたのだ。
えっ! なんで大群なの?
私は驚いた。
ゲームでは大きな一匹のムーンウルフが襲ってくるはずなのに!
大群ではなかった。
「おいおい、魔物はほとんど居なかったんじゃないのかよ」
ヨーナスが声を上げた。
「来るぞ」
抜剣した王子様めがけて狼の一匹が襲いかかってきたのだ。
「喰らえ!」
襲って来たムーンウルフをズバッと王子様が剣で斬り下げる。
ムーンウルフは一瞬で斬り飛ばされた。
しかし、ムーンウルフの群れが次から次に襲ってきた。
王子様らはそれを次々に斬り倒していった。
「おいっ、何でこんなところにムーンウルフの群れがいるんだよ。騎士たちがチェックしたんじゃないのかよ」
「とりあえずやるしかあるまい」
王子様らが叫ぶ。
「俺等5人で大半はなんとかする。漏れた分は頼むぞ」
王子様達は前に突っ込んでいった。
「えっ、そんな」
二年生の男たちが慌てる。
騎士志望のアハティとヨーナスは剣を抜いた。
でも、二年生の男たちは無理だ。
前の殿下たちから討ち漏らしたムーンウルフが向かってくるが、側面にいた二年生は騎士志望では無かったはずだ。
でも、こんな奴らのために私のとっておきの魔法を見せる訳にはいかない。私は地味ダサ女に任せることにしたのだ。
アハティが剣でムーンウルフの牙を受ける、がその剣をムーンウルフが咥えたのだ。
「えっ?」
アハティの動きが止まった。
「燃えろ!」
横から地味ダサ女が火魔法で対処していた。
そうそう、護衛は頑張って働くのだ。
前からムーンウルフがいなくなった。
でも、変だ。
まだでかいムーンウルフがいるはずだ。
私は周りを見たのだ。
その時だ。
向こうから更に大きな巨体ムーンウルフがこちらに走ってきたのだ。
来た! こいつだ。
「ニーナ危ない!」
私の前に出たアハティは一瞬で巨大ムーンウルフの手で弾き飛ばされた。
一目散にムーンウルフは私に向かって駆けてきたのだ。
ムーンウルフはヒロインの私ではなくて、地味ダサ女目指してくるんだけど。
絶対におかしい。
私は大声で叫びたかった。
「燃えよ」
地味ダサ女が炎の魔法を浴びせたが、狼がそれをかいくぐってきたのだ。
「ニーナ!」
遠くから王子様の声が聞こえたる
そして、いきなり地面から巨大ゴーレムが現れて一瞬で巨大ムーンウルフを突き上げていたのだ。
ムーンウルフの体にゴーレムのパンチがめり込み、巨大ムーンウルフは血を吐いて吹っ飛んでいった。
そして、この時が来たのだ。
ヒロインではない地味ダサ女を目指した巨大狼に対しても、その地味ダサ女を助けようとした王子様に対しても、私は切れていたが、でも、ここで私が聖女になるのだ。
「ヴィル!」
アクセリの悲鳴が聞こえた。
私はムーンウルフに襲われた王子様が倒れるのが目に入った。
そのムーンウルフはアクセリ様に退治されていたが、そこには血まみれで息絶え絶えの王子様がいたのだ。
私は慌てて王子様に駆け寄ろうとした。
でも、私の前を地味ダサ女がかけていったのだ。
「ウィル様!」
そして、邪魔なことにその王子様を地味ダサ女が抱えているんだけど。
「ニーナ、良かった」
息絶え絶えに王子様が言ってくれたんだけど……
「ヒール」
私は小さな声で癒やし魔術を使おうとした。
「あれ?」
出来ない! 何故だ?
「ヒール」
私はもう一度やろうとした。でも出来ないのだ。
何故だ。私はヒロインのはずだ。
このままでは私の王子様が死んでしまう。
私が焦りに焦った時だ。
「痛いの痛いの飛んでいけ!」
地味ダサ女がとんでもない詠唱をしてくれたのだ。
なんだ、そのダサい詠唱は?
日本にいた頃の幼い子供にいうおまじないじゃないか!
私は完全に地味ダサ女の行動を馬鹿にしたのだ。
しかしだ!
なんと地味ダサ女の体が金色に光ったのだ。
えっ?
私は唖然とした。
そして、大きな金の光が地味ダサ女の手から伸びて王子様を包んでいたのだ。
瞬く間に王子様の体の傷は塞がったのだ。
嘘! なんで地味ダサ女がヒールを使えるの?
そんなのおかしい! 絶対に変だ!
「私が私がヒロインなのよ!」
でも、私のつぶやきは誰ひとり聞いていなかったのだ。
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ついにライラの思い虚しくニーナが聖女になってしまいました。
絶望に苦しむライラはこのまま身を引くのか?
次回は明日です
お楽しみに!
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