第26話 王子様が現れて地味ダサ女を庇いましたが、その後地味ダサ女は怒らていました

悪役令嬢の登場に地味ダサ女はとても焦っているみたいだ。


ざまあみろだ!


その横では濡れ鼠のイルマは助けが来たと喜んでいた。



「そこのあなた、なんとか言ったらどうなの?」

何も言わない地味ダサ女にしびれを切らしたのか、ぐいっとユリアナが近づいた。


その上、地味ダサ女の周りは完全に悪役令嬢ユリアナの取り巻きに囲まれてしまったのだ。


「イルマ様もお可哀想に」

「平民の女風情に水魔法をかけられてしらばっくれられるなんて」

取り巻きたちが何か言っている。


でも、さすがに地味ダサ女はしぶといというか図太い。

普通は悪役令嬢とその取り巻きの高位貴族の令嬢に囲まれたら、震えて土下座でもしようものなのに、囲まれても一人でちゃんと立っているのだ。


それに青かった顔がいつの間にか不敵な笑みまで浮かべているんだけど……

何故だ?


「あなた、何かの間違いでお優しい第一王子殿下に一度エスコートされたくらいで、いい気になっているんじゃなくて」

悪役令嬢が言ってくれた。


「そうです。この女あろうことかそれを盾に殿下が嫌がっていらっしゃるにもかかわらず、何回か殿下と話しているのを見かけました」

「私もです。殿下が避けようとしているのに、廊下でこの女が話しかけていました」

「殿下とこの女が仲良さそうに歩いているのを見ました」

「殿下の婚約者候補筆頭のユリアナ様を差し置いて殿下に迫っていました」


「あなたそれは本当なの?」

とさかを逆立てて悪役令嬢顔でユリアナが誰何していた。


「はいっ?」

「ほとんど仕事以外で女とお話にならない殿下の人の良い所に付け込んで、殿下の邪魔をしているのかと聞いているのよ」

悪役令嬢は畳み込んだ。


「いえ、そのような畏れ多い事は」

地味ダサ女は流石に目が泳いでいた。


「嘘おっしゃい! 私、この女が、殿下と一緒に生徒会室の裏から出て来たの見ました」

「何ですって、それは本当なの?」

ユリアナの目がますます吊り上がるんだけど……


「いえ、そんな事は」

「嘘おっしゃい。私も見たわ」

「私も見ました」

女たちが次々に証言してくれる。そうだ、そうだ。

流石にそろそろ悪役令嬢の張り手が炸裂するはずだ。


ゲームでは可哀想な私も何度も張り倒された。

地味ダサ女も張り倒されろ!


「あなたそのような人目もつかないところで殿下と何をしていたの」

ユリアナの顔が怖い。


「何もしていませんが」

地味ダサ女はしらばっくれた。


「嘘よ!」

「人様にも言えないってこと?」

「そんな人目もない所で人に言えないことをしていたの?」

なんか女たちが次々に言ってくる。


「あなた、殿下に振り向いて頂くためにその体を使っ……?」

イルマ良く言った。もっと地味ダサ女を貶めろ!


私の願いは地味ダサ女が水魔法をイルマの頭の上から放ったので、

「ギャー」

イルマの悲鳴で消えてしまった。


「な、何をするの!」

イルマが悲鳴を上げる。


でも、私はそちらを見ていなかった。こちらに慌ててやって来る王子様を見つけたのだ。


ヤバい。まだ私には最後の逆転の手があるのだ。ここで王子様の敵になるのは不味い。少しでも恩を売っておいたほうが良いだろう。


次の瞬間、私は180度態度を変えたのだ。


「あ、あんたね」

叫ぼうとした、イルマの口を私は塞いだ。


「ライラ!」

地味ダサ女が喜んで叫んでいた。


「何をしている!」

王子様の大声が一面に響いたのだ。


おおおお! ゲーム通りに王子様は怒っている。本来は私のために怒ってくれるはずなのに……

地味ダサ女の為なんて……


ええい、今は我慢だ。

 

周りの取り巻き連中もビクッとしていた。


「殿下!」

驚いて悪役令嬢は王子様を見た。


しかし、流石悪役令嬢。王子様の怒りにもびくともしていない。

でも、こいつも馬鹿だ。


「何をしていると聞いている」

「私は殿下が女性から近付かれるのがお嫌いだとお伺いしていたので、ニーナ嬢にその旨をお伝えしていただけですわ」

不機嫌な王子様の前で平然と悪役令嬢は言い切ったのだ。


「ほおーー、それを一人では言えないから集団でニーナ嬢に話していたということか」

「いえ、それは……」

王子様の嫌味に流石の悪役令嬢も視線をそらした。


「オルガ・ユロヤラビ嬢。どうなのだ?」

会長は横で唖然としていた伯爵令嬢に振っていた。


「恐れながら殿下。殿下の婚約者候補筆頭であらせられるユリアナ様を差し置いて、その平民の女と」

「オルガ嬢。君はこの学園の校則第一条を知らないのか」

王子様は不機嫌になりオルガの言葉を遮っていた。


「いえ、その……」

もはや、その氷のような声にオルガは涙目だ。おいおいこれっくらいで引き下がるなよ。


「学園校則第一条、『何人も学園在学中は身分によって差別してはならない』だ」

「はい」

オルガはもはや頷くことしかできなかった。


「これを建前だと騒ぐ輩がいるとのことだが、この学園在学中はこの校則に従ってもらわねばならない。判るな」

「はい」

「君たちが相手を何と呼ぼうとも自由だが、人によって呼び方の差別はいけない。一人を様付けすればもう一人も当然様付けしてほしい」

「しかし、殿下」

「もう一度言われたいのか」

王子様がきつい口調でオルガを睨んだ。


「いえ、そのニーナ様とあまりにも一緒にいらっしゃり過ぎるのではないかと」

オルガはなんとか言い切った。


「なるほど。君は2つ勘違いしている」

「勘違いでございますか?」

「1つ目は私の婚約者候補の筆頭は決してユリアナ嬢ではない。というか、今は婚約者は決めていない状況だ」

「しかし、身分が一番高いのはユリアナ様では」

「それはこの学園の中の話であって、別に身分が一番高い令嬢と婚約する必要はなかろう。別に君でも構わないのだ」

「殿下、お戯れを」

真っ赤になってオルガは否定するが、

「それは事実だ」

冷静に王子様が言った。


「そして、2つ目は私は別にこの学園に婚約者を探しに来ているのではない。仕事をしに来ているのだよ。将来のこの国を共に治めていく人材を探すのも仕事だ」

「ニーナ様はそれに値するとおっしゃるのですか?」

「今回の件は魔法師団長からの意向だ」

「カーリナ様の?」

「そんな、殿下。何故なんですか? 魔法の適性検査でその女は私よりも風魔法の力は少ないと出たのですよ。それを何故殿下が構われるのですか?」

不満を悪役令嬢がぶつけてきた。


「ユリアナ嬢。それを判断するのは魔法師団長であって君ではないのではないか。いつから君は魔法師団長よりも偉くなったのだ」

「いえ、それは……」

おいおい、そこで引き下がるな。私が一番だと言い切れ!

私は思ったが、そこまでの気概は悪役令嬢にはないみたいだった。


「徒党を組んで他の生徒を虐める前にまず、自らを磨け」

王子様は格好良くそう言うと、周りの生徒たちをも見渡した。


「君たちの成績やレポート、言動は全て陛下や私の手元にも上がってくるのだよ。心してもう少し勉学に励んだほうが良いのではないか」


いたたまれなくなったのか、取り巻き達は悪役令嬢ともどもさっさと消えていった。



それを見て地味ダサ女はホッとした。


「何をほっとしているんだ」

不機嫌そうに王子様が今度は地味ダサ女を睨んだのだ。


すわ、喧嘩か?


私は嬉々とした。


地味ダサ女はそのまま生徒会室に連れて行かれて怒った王子様から延々とお説教された。


「殿下のおっしゃるとおりです」

「本当にニーナさんは考えなしで行動していて、この前も礼儀作法の先生に延々怒られていたんです」

「歴史の先生の授業でもまた、イビキかいて居眠りして」

「水魔法で関係ない生徒にまで水をかけていました。かけるなら確認してから出ないとその子は泣いていたんですよ」

私は怒る王子様の心を次々に薪を焚き付けて地味ダサ女の悪行を誇張して教えてあげたのだ。


地味ダサ女は反論しようにも事実だから何も言えない。というか、言わさなかった。


そうそう、これで王子様が少しは地味ダサ女に嫌気が差してくれたら儲けものだし、無くても私の有用性は理解してくれただろう。


ダンジョン体験で私が聖女になって王子様を助ければ、王子様は私になびく基礎をこうして私は作っていったのだ。



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本日も3話更新予定です

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