第6話 図書館で地味ダサ女が今度は第2王子に逆らいました

私は開いた口が塞がらなかった。


この地味ダサ女は連れてきた生徒会長がこの国の第一王子殿下であると今まで知らなかったのだ。


「どうしたの? ニーナさん。今頃固まって! 君、俺の挨拶の間中、イビキかいて寝ていて平気だったのに、おかしいよ」

私の王子様が地味ダサ女に笑いかけているんだけど、ちょっと待ってよ!


私の王子様なのに!


「じゃあ、ニーナさん。また、夜ね」

私の王子様が美人な私ではなくて、こんな地味ダサ女に手を振って去っていかれるんだけど、私は放心してそれを見ていた。

「凄いなあいつ」

私の横のアスモ様が感心したように言って私は我に返った。

ここはぼうっとしていてはいけない。


このオリエンテーションでは、まだまだ王子様以外の攻略対象と出会いがあるのだ。

頑張らないと!


「す、凄いじゃない! ニーナ。あなたが、第一王子殿下を連れてくるなんて」

私は心で泣きながら地味ダサ女を褒めたのだ。


「本当だな。殿下はいつも、企画はするけれど、実際自分が中に入られることはないのに。それも殿下は女生徒に触れられるのを極端に嫌われるのに、君はその手を引いていたよね」

アスモ様が、私が思い出したくもないことを言ってくれるんだけど……


そう、こいつは私の王子様と手を繋いでいたのだ。


「それに、殿下は人前では踊られた所を見たことがないのに」

「あの感じでは踊るってことですよね」

外野の言葉に私ははたと気づいた。


エスコートするってことはあの王子様が踊るってこと?

ゲームでは踊るのは最後のサマーパーティーで私が完全攻略した後なんだけど。

何しろ未だかつてこのオリエンテーションで王子様が女の子をエスコートしたことはないのだ。


地味ダサ女はボケっとしているんだけど、こいつは何のことか判らないみたいだ。


でも、アスモ様が、

「今、君は殿下とペアの名前書いて出しただろう」

「はい」

「今日の夕方から新入生歓迎パーティーがあるんだ。あの紙に書いたペアは新入生が学園に早く慣れるようにって、書いたペアの先輩がそのパーティーでエスコートしてくれるものなんだ」

「えっ、ということは私が第一王子殿下にエスコートして頂けるということですか?」

こいつ、そんな事も聞いていなかったの? 


そうだった。この地味ダサ女は王子様の説明を大口を開けて寝ていたのだ。


「そう、そして、そのペアは必ず、一曲一緒に踊ることになっているんだ」


「ええええ!」

地味ダサ女の声が響いたが、私も一緒に叫びたい気持ちだった。


私の王子殿下がこんな地味ダサ女と踊るの?


私は大声で叫びたかった。




その後も競技は続き、二、三案件をクリアしてやっと次のイベント会場の図書館に着いたのだ。


そう、ここで、ヒロインは第二王子殿下と出会うのだ。



図書館では書物探しゲームだった。


カードに10冊書かれていてそのうちの5冊持っていくというやつだ。


確かヒロインは王子様を主人公にした恋愛小説を探して、取れない所を取ってもらえるのだ。


それが第二王子殿下のはずだった。


それが殿下とヒロインの最初の出会いなのだ。


でも、恋愛小説コーナーでその本を見つけたんだけど、第二王子殿下の姿は影も形もないんだけど。


「これだろう?」

何故かハッリとかいう貴族崩れの子がさっと来て取ってくれたのだ。


ちょっと、勝手に取らないでよ!


と思ったが、ここは我慢だ。


「有難う」

と微笑んでおいた。この子真っ赤になってしまって可愛いところもある。


でも、王子はどうしたんだろう?


私達が一階で全員揃って出ていこうとした時だ。


そこに怒った第二王子殿下が現れたのだ。

なんと、その後ろには悪役令嬢のユリアナまでいる。


殿下は怒りの表情を地味ダサ女に向けているんだけど、あなた、殿下にも何かしたの?

それも悪役令嬢まで怒っているみたいだけど。


「先生。その女は書架に足かけて本を取っていたんです」

殿下が地味ダサ女に向かって言ってくれたんだけど。


「な、何ですって!」

司書の厳しいと有名な先生の怒声がした。これは不味いわ。この先生は確か潔癖症でとてもきれい好きで書架も毎日拭いているのだ。


「反則負けですよね」

「そんな訳ないでしょ。あんた何言うのよ」

「ちょっとニーナ、待って!」

第二王子殿下にアンタ呼ばわりした地味ダサ女をさすがの私も必死に止めようとした。

「そこのあなた、神聖な図書館の書架に足をかけたですって」

司書の先生も切れているし。


「いえ、あの、その」

地味ダサ令嬢は青くなっていた。

いい気味だと私が思わなかったというと嘘になってしまう。

私は心の底からいい気味だと思ったのだ。

私の王子様を取るからよ!


「この原稿用紙一面に『二度と図書館の書架に足をかけません』と書いて反省しなさい」

「そんな」

地味ダサ女は唖然としていた。


「ふん、ざまあみろ」

殿下はその罰に喜んでくれたが、ざまあみろは殿下としての言葉としてはどうかと思う。


「アンタよくも言いつけしてくれたわね」

地味ダサ女が殿下に食って掛かるんだけど。

「ちょっと、ニーナ、もうやめて」

「そうだ流石にやめろ」

私も一緒に不敬罪で捕まるのは嫌だ。流石に止めようとしたのだ。


「あなたね。第二王子殿下になんて失礼な事を言うの」

ついに悪役令嬢の堪忍袋の紐が切れたのだ。


「えっ!」

さすがの地味ダサ女は固まっていた。

まあこの女のことだから第二王子殿下も公爵令嬢も知らなかったのだろう。

この悪役令嬢の公爵令嬢は過酷なことで有名なのだ。悪役令嬢のせいで公爵家を首になったメイドの数は片手では足りないそうだ。


そんな殿下達が笑って出ていった後も何か地味ダサ女は固まっているんだけど。


「ちょっと、ニーナ、大丈夫なの?」

流石の私もあまりにも地味ダサ女が固まったまま動かないので声をかけてみた。


「ちょっと、どうした、黒髪」

「お前、今までは第一王子殿下の目の前で豪快にいびきかいて寝ていたじゃないか」

「そうよ、いきなり、どうしたの?」

他の皆も心配して声をかけている。


「だって、私、本当は地味で大人しい性格で……」

「「「……」」」

こいつ、この状態でギャグを言う余裕があるのだ。


ほっておこうかと私は思ったのだけど、こんな礼儀知らずの地味ダサ女、殿下の横に立てるわけはない。友人の私の方が余程殿下の横にはふさわしいのだ。


殿下もこの女と一緒にいれば嫌でもわかるだろう。


そのためにはこの女に少しくらい恩を与えても良いかもしれない。


心の広い私はこの地味ダサ女を助けてやろうと仏心を持ったのだ。


後でいやほど後悔したけれど。


「先生、ちょっとこの子、殿下と知らずにあんなことしたのでパニクっていて、このまま連れていっても良いですか?」

「そうね。二度とこんな事はしてはダメよ」

先生もさすがに可哀相になったのか許してくれた。


呆然としていた地味ダサ女を私達は外に連れ出したのだ。


「どうしたのよ、ニーナ! あなたらしくないわよ」

私が聞いてあげた。


ここはチャンスだ。


ヒエラルキーで私がこの地味ダサ女の上にいるということを否が応でも覚えさせるのだ。


「だって、王子様に逆らって、退学させられたら、私は行くところ無いし」

「えっ? 実家に帰れば良いんじゃ無いのか?」

「実家って言っても、もう誰も居ないし」

「お父さんとお母さんは?」

「昔、小さい時に事故で亡くなったの。育ててくれたおばあちゃんも、半年前に亡くなって」

「そうか、それは大変だったな」

この地味ダサ女の言葉は少しは響いてしまった。


そうか、誰も親族はいないのか。だから教育がなっていなくてこんなに変なやつに育ったんだ。


「で、そんな時にご領主様が王立学園に来れるようにしてくれたんだけど、不敬で退学になったら、受け入れてくれるわけ無いし」

「不敬ではさすがに退学にはならないわよ」

私は一応、そう言って安心させてあげた。


「でも、そんなの判らないじゃない。あの王子様、陰険そうだし」

この女が不敬で退学になったら、王子様は私のものになる……


そう思わなかったと言ったら嘘だ。私は心の何処かでこの地味ダサ女が退学になることを望んでいた。こいつのせいで今まで私の16年が無駄になろうとしているのだ。

こいつさえいなくなれば、王子様も私に振り向いてくれるはずだ。

なのに、なのにだ。


「判った、そうなったら、家で雇って上げるから」

私はなぜかそう言ってしまったのだ。

おかしい。

絶対に変だ。



「本当に?」

「約束するわ」

私は仏にでもなったのだろうか?


「判った、そう聞いて安心したわ」

地味ダサ女は急に元気になったんだけど。


ちょっと、もっとお礼を言いなさいよ。

なにその感謝のしようは。全然なっていないじゃない

私の悲鳴も完全にこの地味ダサ女は無視してくれたのだ。


「皆、行くわよ!」

そう言うと私は校庭に向かって駆け出したのだ。


「えっ、ちょっと、待ちなさいよ!」

「なんというか、とても単細胞だよな」

私は本当に信じられなかったのだ。

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