クライマックスは近い

 目的?


 そんなものは無くて当然なのだ。だって、これって王家による私への取り調べみたいなものだと思うし。

 だとすると、私の目的としては、


 ――生きて帰りたい。


 になると思う。

 そして、そこまでの危機的状況にはならないだろうという感触があるのよね。


 クーガーがあんなことをやらかした後の処理でしょ? それで聞こえてくるアレコレから考えて、まず命の危険は無いだろう、という感触が。

 その代わり……


「ねぇ、アウローラ。このドレス派手過ぎない? どうしてこう光るのかしら?」


 耐えきれなくなって、私の髪を盛り上げていたアウローラに確認する。

 このドレス、もしかして銀糸が使われてないかしら? それも必要ないところに。生地は灰緑という私の指定には確かに応えてくれているけど。それにレースも盛りすぎだ。


 それに肩が出過ぎ。

 この暑さでは助かる面があるけれど、このネックレスもうちょっと大人しくならないものかしら? 重いのよね。重いと言えば指輪だって……


「お嬢様。王家の方々と“お茶会”でございますから。それなりの装いは必要ですよ」


 そうかしら?

 それなら新年の挨拶の方がよっぽど大切に……大切にして欲しいなぁ……


 アウローラはアウローラで何か思うところがあるのだろう。

 彼女自身はいつもの控えめな出で立ちだ。きっぱりと灰色のドレスで、いつもよりも控えめの可能性すらある。


 何だかいつもより、私をとしてるように思えてきた。

 もしかしてアウローラの目的ってやっぱり……?


「さぁ、お嬢様。耳飾りはご指定通り、こちらを」

「……うん。これには文句ないんだけど……」


 王家――アキエース家の紋章は羽ばたく鷲であるので、忠誠心を示すために私の今日の耳飾りは、広げられた鳥の翼。それを分割して左右の耳にあしらっている。


 これ別に特別に作ったわけじゃなくて、新年の挨拶の時にはこれをつけるのよ。

 それで、今回もそれで良いと思ってたんだけど、ドレスがこんなにキラキラしてるとは……


「何だか、今から戦いに行くみたい。私としては言い訳しに行くつもりなんだけど」


 どうにも耐え切れなくなって、私はそんな愚痴をこぼす。

 するとすぐさまアウローラが短く、


「お嬢様」


 と、厳かに告げた。


「大丈夫よ。別に心底からそんなことは……」

「これから探偵が謎解きに向かう。そういう局面であるとお思いなさいませ。残っているページはあと少しでございます」


 あ、そ、そうなの……かな?

 確かにこの呼び出しで一区切りつきそうな予感はしてるし。


 何よりもこれから「謎解き」かぁ。

 うん、何だか気分が良くなってきたわ。クライマックスならそれなりの恰好するのも当然という気がするし。


 ――本当、アウローラには敵わないなぁ。


                  ~・~


 こうして私はメイプレ宮にあてがわれた客室から、テラスへと案内されることになった。

 泊まる予定はないんだけど、天候の変化の可能性はあるか、と私は湖面を撫でる涼やかな風を感じながらそんなことを思う。


 しかしテラスで面会か。

 王家の私有地だから無防備という事にはならないんだろうけど、随分明け透けだ。


 もしかしたら私に気を遣っている?

 気を遣う可能性は……あると言えばあるか。


 幾たびか離宮内の廊下の角を曲がり、多分西南に向かって広がっているテラスに辿り着いた。

 離宮と呼ばれるほどではあるので、広いは広いんだけどやっぱりそれほどでは無い。


「――こちらです」


 私がそんなことを考えていると、案内してくれた侍女がそんなことを言い出した。


 ――こちらです?


 は? 「こちらでお待ちください」じゃないの? それじゃまるで王家が先にテラスに居て、私を待ってるみたいな。


「ああ、よく来てくれました。僕がフォルティスコルデです」


 うわ! という驚愕の声を私はなんとか胸の中に押し込んだ。

 本当に王家が先いたよ。どういう段取りなの? 


 私に声をかけてきた人物は、王太子フォルティスコルデ殿下。

 白いフロックコート姿なのは、いつも通り……ん? それよりも砕けている感じかも。あくまで私的な招待であるということを示すためだろう。


 私を招待をしたのは一応、殿下という事になっている。今回の戦後処理を導いたのも殿下だと伺っているし、私も殿下が来られるのだろうとは考えていた。


 殿下とは新年の挨拶で顔を知ってはいるけど、やっぱり何だかお辛そう。

 それなのにきちんと立って出迎えてくれている。


 私は急いで跪いて、頭を下げた。

 後ろではアウローラも同じく跪いている気配を感じる。


「――殿下。もったいないことです。本来なら私が……」

「いやいや。妙に形式ばる必要はないと思ってね。逆に気を遣わせたようで申し訳ない」


 あ、やっぱりそういう展開つもりがあるのか、と内心で覚悟を決めながら殿下と当たり障りのない話を続ける。

 無理をして私のドレス姿を褒めてくださるから、男子としての礼儀で私を出迎えてくれたんだろうな。


 そうして話している内に、やっぱりというべきか殿下は――ルティスと呼ぶように言われたからルティス殿下と呼ぶことになった――兄上とは旧知の仲で、私についての話はよくしていると打ち明けられた。


 その辺りしか、殿下と繋がりが見えなかったからね。

 それに殿下と兄上はどこか似ている。いつも疲れているような感じが。


 兄上は……ああいう様子なのは理由があるわけで、殿下もやっぱりそうなのだろうか? 今までもそんな風に思ったことはあるのだけど。


 やがて、そろそろ本題かな? と私が思ったタイミングで――


「実はね。母上も君には会ってみたいというので離宮こちらに来ているんだ。同席を許してもらいたい。母上のわがままだからね。あとで何かねだればいいよ」


 え? 妃殿下まで?


 何故?

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