東の果てのその先に
リアゥムの推理は半端に的中していたと言える。
物理的な意味でも、心理的な意味でも。
まず名所名跡に火薬を蓄えていた、については――
――そうしている場所もあるし、そうしていない場所もある。
という、なんとも当たり前すぎる結果が判明したのである。
つまり最初はヴォミットの推測通りに、名所名跡に自分を当てはめて愉悦に浸っていたクンシランが、あとから火薬の貯蔵場所として使うことを思いついた。
ただそれだけの話ではある。
それでも実際に火薬は発見されたし、クンシランが火薬を名所名跡に蓄えておこうと考えていたことも的中させたと言えばそうなのである。
だからこそリアゥムは大いに自尊心を満足させたし、公爵軍も快哉を叫んだ。
実際には公爵軍の人海戦術で強引に結果を出したことになるのだが、それもまた成果であることは間違いない。
遠く離れた南方であるからこそ、机上で、しかもピンポイントでクンシランの狙い、そして行動パターンを捉えなければな無かったスイーレとは、元より始めから条件が違う。
地元の有利さがあり、それをリアゥムは活用しまくったということだ。
……それでも、スイーレの指摘で行われた火薬の補給妨害が無ければ、クンシランの動きに気付けなかったわけなのだが。
ただ、そこから「竹林峡」にクンシランが現れたことに関して違和感を覚えたのは、確かにリアゥムの功績ではあるだろう。
他の名所名跡と比べると「竹林峡」は格が落ちる。
知名度もいまいちだ。ここでも、そういう地元有利があったことは否めないだろう。
だがクンシランがここで見せつけるように目撃されたこと。
それは他の意図があることを上書きするためなのではないか?
そして事実上、ここが王国の東の端であること。生活に関わりがない、人の往来が少ないこと。
位置的にも、環境においても火薬を隠すにはうってつけであることを、リアゥムは見抜いたのだから。
その確信を深めたリアゥムは公爵軍を広域に展開させて、クンシランを追い込みにかかったのである。
南方諸侯は小競り合いで疲弊しているし、信頼できないため追討作戦には加えなかった。
実際、クンシランを追い詰めるためのリアゥムの差配は見事なものであったし、どこで傭兵団を通じているかわからない南方諸侯をこの作戦に加えることは危険でもあったことは確かである。情報が洩れればクンシランを逃がす可能性すらあった。
それに協力させると公爵軍の――リアゥムが名声を独り占め出来ないという“その先”を見据えた思惑があったことも事実である。
またそういう思惑があったからこそ、公爵軍は密かに、そして確実にクンシランの選択肢を狭めていった。
そして――
ついに公爵軍とクンシラン率いる傭兵団は「竹林峡」で激突した。
そう文字にしてしまうとそれで決着になるかと思われたが、この時リアゥムの戦術眼の拙さが露呈する。
リアゥムは追い詰めた流れそのままに、傭兵団を背後から押し包んだのである。
これは見方を変えれば、
――火薬が潤沢に用意されてる隘地に敵を陣取らせる。
という、実にマズい状況に自ら陥ったことになるからだ。
しかも「竹林峡」の名が示す通り峡谷である。身を隠して一方的に公爵軍に銃撃を加える事さえ可能であるのだ。ただでさえ数が多いことの有利を喪失してしまった公爵軍である。
あとは勝つだけ。
傭兵団など物の数ではない――
――と意気が上がっていた公爵軍の士気は反撃されたことで著しく下がった。
結果として、両軍睨み合っての膠着状態になる。
公爵軍は引くに引けない戦いであることは間違いない。傭兵団も公爵軍の敵陣を突破することは出来そうもない。逃げるに逃げれないのである。
そして一日が経過したころ……
傭兵団の背後から新たなる勢力が出現した。
その出で立ち、武器、言葉、そして何よりもその技量。
それは間違いなく、アハティンサル地方に住まう部族達だったのである。
今までは王国の東の果てと思われていた場所の、さらに東から彼らはやってきたのだ。
つい先日、王国領に加えられたアハティンサル領であるから、公爵軍と挟み撃ちの状態になるこの状況は、理屈の上では正しくはあった。
だがいきなり王国への忠誠心が芽生えるはずもない。
アハティンサル地方の部族としては、やかましいよそ者を排除に来ただけ、というのが正しい認識というものだろう。
いや、そう認識する前に傭兵団、公爵軍共にさんざんにアハティンサル地方の部族に蹴散らされてしまった。膠着状態だったので疲弊もあったのだろう。
だが何よりも部族はこの地での戦いに慣れていた。
そして何よりこの場所を「竹林峡」などと呼んで有難がったりはしなかった。
「竹林峡」に蓄えられていた火薬に容赦なく火を放つ。
その爆発で地形が変わることも意に介さずに。むしろ両軍を追い払うのに手間が省けると言わんばかりに積極的に。
それがルージーがスイーレに短く伝えた報告の――真相である。
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