計画は順調なのか?
まったく、そんなつもりもなかったのに気付けばクーガーの「証明」のための具体的な計画が出来上がってしまっていた。
いや、それは大げさね。とりあえずの方針が決まったというぐらいかしら。
それでもクーガーに「テプラ山地の北端あたりに向かって」と具体的な指示を送り届けることが出来る……いや出来そうになっていることは立派な進展だと思う。
もっとも、
「これこれ、こういう日に間に合うように向かって」
と、日付を挙げることが出来ないのだから……やっぱりあまり進展してない?
いや、それは自ずから判明するはずだし。それでも私たちが辿り着いた推測がどこまで頼りになるかは未知数と言わざるを得ない。
やっぱりあの日は、興奮状態だったのよね。
クーガーがあんなこと言うから……それとヴォミットとスパントが加わって……なんだか特別な状態になっているんだ、と錯覚してしまっていたと思う。
本当に何を考えたら、あんな話し合いを御前会議――そういうものがあるとして――のように感じてしまったのか。
あの後、クランナがびしょ濡れで戻ってきた。その姿を見て、私も頭が冷えたわ。
クランナには優しく帰るように勧め、あのおかしな会議もそこでお開きになった。
でも、出てきた結論には整合性があったと思うのよね。
あるいは、そうと錯覚してるだけかもしれないけど。そうなると、その「結論」で他の人はどう考えるか試してみたいじゃない?
幸い私には兄上がいるし「結論」に説得力があるなら、それは結局兄上に相談するしかないわけよ。そこから先を具体的にするには。
つまりは「一石二鳥」という目論見もあったことは否定しないわ。
そして兄上に会いに行き――会えるまでに三日かかったわ――「結論」について説明する。これは逆に会えるまでに時間がかかったことが幸いした部分ではあるわね。
ちゃんと説明すべき点を整理できたのだから。
屋敷に着くと、兄上の部屋に向かって早速説明を始めた。
お互いに忙しいからね。兄上と私だけで向かい合って、ほとんど立ち話のように。
まず私はメモを片手にひたすら説明する。
整理の結果、ヴォミットやスパントの名前は出さないことにした。いちいち説明することが増えるからね。ただしクーガーについてだけはきちんと説明する。
……きちんと説明できていたかはともかく。
気怠い様子で私の説明を聞いていた兄上。
それはいつもの事なので気にしないで、どんどん説明を続けてゆくことにした。
そして説明が終わると兄上は、こう切り返してきた。
「……スイーレ、よくまとまっているね。うん……だけど」
「やはり、ダメですか?」
「いや、まとまりすぎているんだ。まとめ過ぎて抜けていると思われるところがある……うん、主に帝国の動きなんだけど」
一瞬、ヒヤッとした。
それは思いついてはいたけど、あの会議でも出さなかった推測だ。
そして兄上は、そんな私の反応だけで察したようで、そのまま言葉を継ぎ足してゆく。
「ああ……やっぱり気付いてはいたんだ。ついでだから、それも聞かせて」
「で、ですけど私は帝国の事は何にもわからない――」
「それは大丈夫だと思うよ。クンシランの動きと、動きを操る方策はよく出来ている。だから……帝国の動きについて何も説明されてないことが気になってね」
そう言われてみると、確かに帝国の動きを全部カットしてしまうのも問題があったかと気付かされる。
……実はイラッハ領の火薬の輸入先は帝国なのでは? という疑惑もあったのよね。これは会議のあとから気付いたんだけど。
それにしても兄上もやっぱり曲者だと思う。
流石、父上の息子――って言ってしまうと私は自分の首を絞めることにもなるから口にはしない。
その代わりに、推測も含めて兄上には全部説明した。
帝国の動き、そこから繋がる南方にはさらなる危機があるのでは? という大げさな推測も含めて。
兄上は変わらず、俯いたまま床の一点をじっと見つめ続けている。
慣れていない者なら、そんな兄上の様子に不安を覚えて、何かしら言い訳をしてしまいそうになるだろう。
妹の私が、そんな気持ちになるんだもの。
これはこれで兄上のテクニックなのかもしれないわね。
実際、私が説明を終えて、
「――という『結論』に達しました。つきましては兄上にご助力願いたいのですけど」
と、大事な部分であるのに投げ出すように言ってしまったのは、兄上の圧に押されての事だと思うし。
もちろん、兄上はそれでも身じろぎ一つしない。
だけど、ちょっと長すぎないかしら?
もしかしてお身体が本当に――
「…………うん。わかった。火薬を運搬している者を妨害すればいいだね。これは割と簡単だと思う。燃やしてしまえばいいんだから」
やっぱり兄上には気付かれてしまったか。
実はそうなのよね。これをヴォミットたちの前で口にすると、怖がらせてしまうと思って口にしなかったんだけど。
ただ、そうなると――
「王国の……それともシーミア公爵家にお伝えするんですよね? かなり乱暴な……」
「いや。そこはルースティグ家だけでやる。もちろん秘密裏にだけどね」
私はそれでも角が立たないだろうと思われる
あまりに過激――とも思ったが、そう言われてハッと気づく。
「もしかして……内通者が?」
「帝国が噛んでいるのなら、その可能性は考えるべきだと思う。その点、ルースティグ家は関係なさすぎるからね……北過ぎて。南方諸侯はちょっと危ないだろうね」
そこで、再び兄上は黙り込んだ。
これで打ち合わせはおしまいという事なのだろうか?
確かに伝えるべきことは伝えたし、兄上のご助力もいただけるみたいだし、私としても用は済んだと言えるだろう。
でも何か、兄上の様子が……いつも通り……いえ、何か……
「……スイーレ」
「は、はい」
いきなり名を呼ばれた。
何かあるのだろうか? 私が兄上の言葉をじっと待っていると……
「まぁ……うん、少し考えすぎたな。とにかく君の『結論』はよく出来ていたよ。これならクーガーの『証明』も可能だろう」
「は、はぁ。では、よろしくお願いします」
とにかく兄上から言質は取ったのだ。
そう割り切ることにして私は頭を下げ、屋敷を辞したのである。
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