辿り着いた「結論」

「一つだけですか? それって指定できるものなんでしょうか?」


 すぐにスパントから声が上がる。さらにヴォミットからも、


「一つの物資だけを補給することはないように思われますが……その辺りはどうなのでしょう?」


 と、疑問の声が上がる。

 それに一瞬、黙り込んでしまうスイーレだったが、ここでもったいぶるほど確信があったわけでは無い。

 となれば、さっさと狙い目だと考えている物資の名を告げてしまおうと思い切ったらしい。


「……あのね。火薬を運ぶのを邪魔すればいいと思ったわけよ。弾も一緒だとは思うけど、とにかく火薬よ」

「「火薬」」


 スイーレの告白に、スパントとヴォミットが揃っておうむ返しで応じた。


「火薬って……ああ、銃に必要なんですね。武器の一種?」


 自分を納得させるため、という部分もあるのだろう。

 眼鏡をクイッとかけ直しながら、アウローラが疑問符付きの言葉を発した。それにスイーレが頷きながら答える。


「うん、そう。確かに言ってしまうと武器の一種かもしれない。そして剣とか違って、あっという間に使い切ってしまう」

「そうなんですか? そんなに使うものなんでしょうか?」


 その点は確かに判断が難しいところだ。

 スパントとヴォミットも、アウローラの疑問に乗っかるように頷く。


 確かにクンシランは銃の名手として知られている。

 それに配下に銃部隊があることも確かなのだろう。だが、実際にはそこまでの戦闘行為があるようには伝わっていない。


 それでは火薬の消費量もさほどないのでは? と想像してしまうのも無理からぬところだ。

 だが、スイーレはそんな指摘にこう反論する。


「目的が南方を委縮させることが目的なら、火薬――っていうか、銃声って一番効果があると思うのよ」


 その指摘は確かに三人の意表を突くものだった。

 さらにスイーレは説明を続ける。


「銃声だと、聞こえるだけで戦ってるっていう判断になるでしょ? わざわざ見に行かないと思う。ますます南方の民たちは傭兵団を見ないようにすると思うのよね」

「つまり……ブラフハッタリのために火薬が必要という事か。それなら確かに」


 ヴォミットが感心したように呟く。

 続いてスパントが、ハッっと表情を輝かせた。


「そうですよ! スイーレ様! 『ラッセン川に消ゆ』です」

「ピーロットの? ……ああ、そうか! そうよね。銃声がすれば当然、弾が発射されたと考えるけど、そうじゃないんだわ!」


 推理小説のタイトルだけで話を進めようとする二人。

 それには流石にアウローラから「お嬢様」と、注意の声が挟まれた。


 スイーレは慌てて説明を始める。


「ああ、ごめん。つまり銃声だけさせてれば戦ってる振りだってできるって事よ。他の傭兵団ともそれを繰り返せば契約金をいくらでもだまし取れるし、ずっと戦い続けることが出来るのよ。人が死なないんだから。――そうよね? スパント」

「そうですそうです。空砲ですよ」


 発想のもとになった推理小説はわからないままでも、これでヴォミット達も二人が興奮している理由を理解した。


「……なるほど。それだけの火薬の量。街や集落を襲っても手に入りませんな。生活に必要ありませんから。補給に頼るしかない」


 だからこそヴォミットの口からも、さらに踏み込んだ推測が紡ぎだされるわけである。


「うん……そうね。同時に食料の補給も運んでいる場合もあるだろうから、火薬だけを狙っても南方に全く被害が無いなんてことは無いと思うけど、それでも随分マシなはずよ。まぁ、他にも理由があるけど火薬狙いは正しいと思う」

「となるとですね――」


 スパントが南方の地図に近付く。

 指さしたのは、地図の左隅に描かれているイラッハ領だ。そこから東に目を向けると、当然そこにはテプラ山地がある。


「――テプラ山地越えは厳しいかもしれません。火薬を運んでいるわけですから足元が怪しいのは避けたいですね」

「天候についても調べてみるわ。雷とかが頻繁に落ちるようなら、それも避けたいところだしね」


 スパントの推測に、スイーレがさらに肉付けしてゆく。

 それもまた刺激になったのだろう。スパントがすかさず、


「あ、雨の心配もありますね。当然対策はしてるんでしょうけど、出来れば平坦な道を使いたいですね。結局その方が速いと思いますし」

「でも、クンシランは堂々とイラッハ領に乗り込むことも避けたいはずよ。補給の妨害が成功したとしても、繋がりは無いという建前は守りたいはず。という事は……」


 四人の視線が地図上の一点に注がれる。


 それはテプラ山地の北端。

 イラッハ領からはわずかに東にずれた地点。


 目立った町や集落は記載されていないが、さらに北に目を向けるとフシアルバという村があるようだ。

 そんな町の中で受け渡しがあるとは考えにくい。


 だとすれば、テプラ山地の北端とコトウィの中間。

 恐らくそこが――


「――クンシランが現れる地点、という事になるわね」


 スイーレが、疲れ切った笑みと共にそう告げた。

 耳飾りがシャランと鳴る……


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次回から、一人称になります。

よろしくお願いします。

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