整合性を求めて

「――それは、僕が書いている小説ほんは関係なく、という事ですか?」

「そう。ただ整合性のある答えが欲しくて。現実の話なんだけど」


 コンピトゥムの確認に、スイーレはそう答える。

 途端、コンピトゥムはシニカルな笑みを浮かべた。


「現実? 現実なんか整合性がある方が珍しいですよ」

「私とクーガーの婚約が破棄になったの知ってるわよね?」


 コンピトゥム会心のイキったセリフを綺麗に無視して、スイーレは説明を続ける。

 色男台無しだ。


 そこに、さらにアウローラが主人を諫めようと、


「お嬢様!」


 と声を上げた。

 ルースティグ伯家内々の事を外に出すな、という事なのだろう。アウローラの立場としては当然の訴えである。


 しかし、それが逆にコンピトゥムを刺激したのだろう。

 顔を上げる――以上に身を乗り出してきた。


「それは聞き及んでますよ。というかクーメイニで知らぬも者いないでしょう」


 コンピトゥムはそう言いながら、スイーレの左手薬指を確認する。


「もちろん詳細は知れ渡ってはいませんがね。お二人は仲睦まじいと聞き及んでいましたので、意外に思われる者が多数、といった感じです」


 さらに続けて情報を並べる。

 「仲睦まじい」という言葉に眉を引締めるスイーレではあったが、それは関係ないとばかり、耳飾りを揺らし首を横に振った。


「……ここから先はしばらくは秘密にしておいて。その内、発表になると思うんだけど、実は王家から命じられたみたいなのよ」

「王家って……アキエース家が? 直々に? お二方の婚約破棄を?」


 さすがに異例過ぎると感じてしまったのだろう。

 コンピトゥムは思わず救いを求めるようにアウローラに視線を向けたが、時すでに遅しである。アウローラは悲しげに頭を振った。


 ところがさらにスイーレは続けてしまう。


「そうなのよ。ここまでなら、まぁ、それはいいか、とも思うんだけど……」

「思われるんですか? いや、これ以上に何かあるんですか?」

 

 今度は腰を引き始めるコンピトゥム。

 忙しいことだ。


「婚約破棄を命じておいて、クーガーが改めて婚約する様子が無いのよ。ああ、もちろん私もないわよ」


 そして、さらに続けられたスイーレの説明で今度はコンピトゥムの表情が引き締まった。

 そのまま眉を顰めながら、


「それは……変ですね」

「そうなのよ。王家が介入してまで婚約破棄。ということは何かしら急いでいる事情があるはず。なのに次の婚約を用意してないというのは――つまり整合性が無い」


 そこでコンピトゥムは、なぜ自分が話を持ち掛けられたのかを理解した。

 ある状況に整合性を張り付ける。それはコンピトゥム、あるいは「ラティオ」に所属している作家なら皆が行っていることだ。


 中でもコンピトゥムは、その能力が高い。

 ……とスイーレは判断したのだろう。


 そして、その期待に応えるようにコンピトゥムが“推理”を始めた。


「まず――クーガー様に横恋慕してる令嬢がどこかにいる可能性」

「ちょっと待って。それはもう……」

「そうかもしれません。ですが丁寧に検討していくことは大事なことです。可能性のあるご令嬢は……ところでスイーレ様とクーガー様は何歳違いなのでしょう?」


 似合いの年齢というものがある。

 それをコンピトゥムは考慮に入れようと考えたのだろう。スイーレは小さく頷いて、


「二歳違いよ。私の方が年上」

「実際は三歳に近いです」


 開き直ったのか、突如アウローラが参加してきた。

 スイーレは自分の後ろに控えるアウローラを無視して、そのまま続ける。


「だけど貴族同士の婚礼って、年齢差はあまり重要じゃないのよ。家格が釣り合うとか。政略に適うかどうかとか」

「そうですか。ではスイーレ様とクーガー様も?」

「いや……それはもう終わったことだから」


 コンピトゥムは視線をわずかにアウローラへと向けた。

 何かしらの補足を期待したようだが、彼女もそこまで開き直ってはいないようだ。


 そしてその隙に、スイーレがこの推理にとどめを食らわす。


「例えばクーガーを欲しがった誰かがいるとしてもよ。もう勝負はついてるわけ。私との婚約を破棄させたんだから。そうしたら喜び勇んで自分とクーガーの婚約を発表するに違いないわ。それが整合性というものよ」

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