タバコが旨いという嘘
蓮太郎の顔はあいも変わらず苦々しく曇っていくが七ツ星は続ける。
本題はここからだったからだ。
七ツ星
「そしてですね、数年前です。父が病気を患いました。年齢も年齢です、もう長くは無い」
「自分の余命を悟った父は、良心の呵責に苛まれたのでしょう、俊継君を探してくれと」
「残りの人生を俊継君への贖罪に使いたいと」
「私は半ば諦めていました。あまりにも時間が経ちすぎている。死んでしまっている可能性を考慮しない訳にはいかなかった」
「しかしです。部下から俊継君を見付けたと報告が入り、今日こうして来たという事です」
七ツ星はお付きの男へ振り返り、首を少し下げた。
お付きの男はすかさずジュラルミンケースを蓮太郎の前に差し出すと、ロックを外して中身を見せる。
七ツ星
「これは、今までのお礼の気持ちと養育費です」
(はあ、こんな大金を生で見るのは初めてだ)
(しかし金持ちってのは金銭感覚が庶民のそれとは違い過ぎるもんだな。まあ、口止め料と言ったところか。現金であるのも推して知るべしだな)
蓮太郎
「すみませんが、その、えーと、少しタバコを吸ってきても良いですか」
それならここでどうぞと言う七ツ星に
「いえ」
とだけ答えて外へ続くドアに手を掛けた。
それに気が付いたハクが
「ぼくもいく」
と駆けてくる。
蓮太郎はハクの手を握り部屋の外へ出た。
蓮太郎
「ハク、一番下のコンビニにお遣い頼めるか?いつものタバコを買ってきて欲しいんだ。ついでにハクの好きな物を買ってくると良い、ばあさんによろしく言って話し相手になってやってくれ」
ハクは
「やった」
と言って階段を降りて行く。
蓮太郎は反対の階段を登って屋上へ出た。
ツカツカと手摺まで歩くと咥えたタバコに火を点ける為にライターを擦る。
風のせいか上手く火は点かない。
左手を出来るだけお椀状に丸めやっと火を点ける。
ふうーと煙を吐き出しながら手摺に背中を預けた。
ぼんやりと空を眺める。
蓄えられた灰が自重で落ちていく。
ストンと落ちた灰は蓮太郎のスラックスを汚した。
ハクが戻ってくる前に話しを済ませたかった蓮太郎は足早に事務所へ戻って行った。
この一服でパキッという音は聞こえてこなかった。
蓮太郎
「七ツ星さん、ハクを宜しくお願いします」
蓮太郎は深く頭を下げた。
七ツ星は蓮太郎の手にジュラルミンケースを握らせてから、蓮太郎の両肩をグッと掴んだ。
「それでは明日お迎えに上がります」と言い帰って行く七ツ星。
蓮太郎はいつまでも頭を下げたままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます