ソフトキャンディ酸辣湯麺味

 蓮太郎は既に起きており、ソファーで新聞を読んでいた。

タバコの相方はコーヒーにした。



ハク

「れんたろぉおはよぉ」



蓮太郎はまだまだ寝足りない様子のハクに

「おはよう」

と応えると、朝食の準備が済んでいるから顔を洗ってくるよう伝えた。

それでもまだねぼけ顔のハクがダイニングテーブルに着く。



本日の朝食はトーストに目玉焼きとウインナー、ヨーグルトと簡単な物だった。



蓮太郎

「ハク、野菜ジュースは何色が良い?」


ハク

「うーんきょうわみどりにするよ!」



蓮太郎は冷蔵庫から、赤、黃、紫、緑と買い揃えてある野菜ジュースから緑を選び、紙パックを手にハクの正面まで来てテーブルの空いたグラスに注いだ。

あまりにも緑みどりしいその色に興味本位でパックに印字されている表示を見る。



(食塩、甘味料不使用ね。保存料も合成着色剤も不使用か)


(ということはこの緑色は自然由来って事か。鮮やか過ぎるだろ)


(ええと、入ってるのは、ピーマン、ゴーヤ、春菊、パセリ、しそ、クレソン、よもぎ、パクチー、明日葉、オクラ、オカヒジキ、ニラ、アサツキ、わけぎ、九条ネギ、ししとう、万願寺唐辛子、タァサイ…ってなんだ?知らん野菜だ)


(セロリ、グリーンピース、いんげん豆、枝豆、そら豆、水菜、桑の葉、ジュンサイ…とてもじゃ無いがジュースに出来るほど水分がある野菜に思えない)


(それをジュースとして飲めるまで絞るんだ、そりゃ栄養満点な訳だ)



ハクはごくこと美味しそうに緑の集合液を飲んでいる。



ハク

「れんたろっこれおいしいよどーぞ!」


蓮太郎

「いや俺はいい、本当に大丈夫だから」


ハク

「むうう、これっどーぞ!」


蓮太郎

「分かった分かった、一口だけ貰うな」



(うわー苦ぇしえぐいし何か辛いわっ、それにネギの匂いが強いっ)


(本当に自然がそのまんまって感じ…あれ?ここは…母方の祖父の田舎?)


(何で俺はこんな所に居るんだ?だってビルの自分の部屋に居た筈じゃ…)


(しかし森の木々たちが気持ち良いな、そよぐ風の香りも何だか違う、土と植物の香りが子供の頃を蘇らせる)


(あれ…あそこで畑仕事してるのはじいちゃんか?そんなハズは無いぞ、じいちゃんは俺が大学生の時に亡くなってる)


(でもあれは…じいちゃん)


じいちゃんが振り返った

「おーい蓮太郎〜こっちさ来てこれ食ってみろ〜」


(じいちゃんじいちゃん、これを食べるの?)


(あっほのかに甘い)


「ははっーそうだべさそうだべさ、採れたての新鮮な野菜っちゅーんはな何でもうめぇもんだに、そりゃタァサイって言うだ」


(じいちゃんこれがタァサイ?)


(あっ待ってじいちゃん行かないでっじいちゃんがどんどん遠くなってく、待ってくれ)


(おっ俺、俺、じいちゃんが病院のベッドで危篤状態って聞いた時に丁度就職の面接の日でっそっそれで面接終わらせてソッコー新幹線使って病院行ったんだけど、結局間に合わなくて…)


(そのっじいちゃん本当にごめんっ!)


(あんなに可愛がってくれたの、最後にお礼も言えなくて、じいちゃんに会えなくて、最後に孫の顔でも、見せてやりたかった…本当にごめん)


「ははっー気ぃすんねぇ気ぃすんねぇ。じいちゃん蓮太郎が元気さいてくれたらそれだけで幸せだ、達者でやれよ〜」


(ああじいちゃん…)



蓮太郎

「じいちゃん…苦くて甘えよ…これは優しさと後悔の味なんだね、じいちゃん」


ハク

「れんたろっ?ないてるの?」


蓮太郎

「うわっ本当だ、俺泣いてるじゃん」


ハク

「あーだめ!もうれんたろっこれのんじゃだめー」

「ないちゃやーだよーれんたろよしよし」



既に自分の分の食事は済ませていた蓮太郎は事務所に行っているとハクに伝えた。



ハク

「れんたろっごはんおわったー」


蓮太郎

「まずはご馳走様だろ?食器はシンクに入れといてくれたか?」


ハク

「いっけなーいそうだごちそうさまでした」

「しんくにもいれておいたよー」


蓮太郎

「うんっ良く出来ました」

「また目玉焼きにはメイプルシロップ掛けたのか?ウインナーにも?」


ハク

「そーだよー、あれかけるとあまくておいしいの」


蓮太郎

「ヨーグルトには?」


ハク

「うーんなんだったっけー、なめたけ?」


蓮太郎

「なめ茸な。パンとヨーグルトになめ茸を掛けるの本当に好きなんだな」


ハク

「おいしくてたくさんたべちゃうよ」

「れんたろっおかしひとつだけたべてもいい?」


蓮太郎

「別腹ってやつか?しょうがない、一個だけな」



ハクはやったーとキッチンへ向かった。

ゴソゴソとキッチンワゴンの中を物色し、その中の一つを掴み走って戻って来る。



ハク

「これにしたよー、かむかむするやつ」

「れんたろもこれどーぞ!」


蓮太郎

「いらんいらん、俺に変なもん食わすな」


ハク

「むうう、はいっこれどーぞ!」



(かむかむソフトキャンディ酸辣湯麺スーラータンメン味っておい、コンビニのばあさん何てもん仕入れてんだよ)


(見た目は薄黄色だな)


(おっ噛むと中の部分は鶏ガラ系醤油スープ、さらに中心に酢の部分が有って噛んで雑ざるとスーラータン風味だ)


(さらに良く噛むと、回りの部分、そう、薄黄色は卵か)


(スープと溶き卵が混ざり合う演出がされてやがる)


(それにこの風味は…)



ソフトキャンディを噛む噛むしていた蓮太郎は、ハッとしながら成分表示表を見た。



蓮太郎

「どうりで中華麺の存在を感じると思ったら、かん水が入ってやがる、再現度が高すぎて逆に気持ちわりい」


ハク

「れんたろっおいしくなかった?」


蓮太郎

「美味しかったよありがとな、後はハクが食べな」



食後のデザートも程々に蓮太郎はハクを部屋着から着替えさせる。

蓮太郎が用意した服はどれもオーバーサイズだ。それは単純に蓮太郎には子供服の知識が無いからというのと、ハクの成長を見越して大人用のSサイズをいつも買うからだ。


パチンッとサスペンダーの良い音がすると今日も一日の始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る