第42話 観光客、戦利品を獲得する


「グオォォォ……ガフッ」

「こいつ……死んだら血の代わりに溶岩を吐き出すのか」

「あぁ……なんて恐ろしい魔物なのでしょうかぁ……っ!」


 そんなこんなで無事にファイアドレイクを討伐した俺とディーネは、大量の経験値を得たことでレベルアップした。


 ここへ至るまでにも何度かレベルが上がっていたため、現在のステータスはこんな感じだ。


 ※※※※※※※※※※


 *ステータス*


【マシロ】

 種族:異界人 性別:男 職業:観光客

 Lv.20

 HP:134/134 MP:102/102

 腕力:30 耐久:24 知力:28 精神:26 器用:29

 スキル:鑑定、値切り、旅の経験、収納

 魔法:クリーン、トリート、トーチ、ステイ、トラベル、精霊召喚

 耐性:火炎耐性


【ディーネ】

 種族:精霊の化身 性別:女 職業:マシロの眷属

 Lv.15

 HP:195/195 MP:127/127

 腕力:18 耐久:55 知力:20 精神:37 器用:15

 スキル:水の加護、聖水、挑発、庇う、嘘泣き

 魔法:ウォーターバリア、ヒールレイン、ミラージュ

 耐性:火炎耐性


 ※※※※※※※※※※


 俺はヤツが吐き出した『転移の指輪』をディーネの聖水で清めてから装備したので、新しく「トラベル」の魔法を習得している。  


 つまり、MPさえ足りていれば訪れたことのある町やダンジョンを自由に行き来できるようになったということだ。ひとまず目的達成だな。


「はぁ、はぁ……やりましたねぇ……っ!」


 息を切らしながら、地面に倒れ伏すファイアドレイクを見下ろして言うディーネ。


「激しくてぇ……どうにかなってしまいそうでしたぁ……!」


 おそらく疲れているというよりは沢山ダメージを受けて興奮状態なのだろう。


 実にふざけた奴だ。


「……いいや。まだまだこれからだぞ」


 俺は全て終わった気になって満足しているディーネに向かってそう告げた。


「ふえぇっ……?!」

「討伐の証明として、今からコイツの首を切り落とさなければいけないからな」

「こっ、こんなに大きいものをですかぁ……?! むっ、無理ですよぉ……!」


 ディーネは覚えたての【嘘泣き】スキルを発動しながら、首をぶんぶんと横に振る。


「……ああ、確かにそうだな。仮に首を切り落とせたとしても、【収納】スキルを持っていなければ持ち運ぶことすら困難だ。おまけに、首だけでもかなりの重量になるから『トラベル』の魔法でも習得していなければ町まで持って帰れない」


 ひとまず、ディーネの意見には同意してやる。


「やっぱりそうですよねぇ……!」

「だが、残念ながら俺は両方とも習得しているぞ」

「………………!」


 そこで何かを察したディーネは、みるみるうちに萎れていった。


「つまり、ファイアドレイクの首を持ち帰るのは不可能ではないということだな」

「そ、そんなぁ……!」


 俺は絶望するディーネを放置し、懐から短剣を取り出す。


 何にせよ、報酬を受け取るためには武器を使ってどうにか首を切り落とすしかないのである。


 ……まったく。依頼主である「ルーノス温泉組合」は、一体何を考えてファイアドレイクの頭を討伐の証明に選んだのだろうか。何処かの宿に飾るつもりなんじゃないだろうな?


 俺はそんなことを思いつつ、ディーネと協力してファイアドレイクを解体していくのだった。


 *


「……よし。これで終わりだ」


 長い時間をかけて首を切り落とし、それの【収納】を終えた俺は、額の汗を拭いながら言った。


「疲れるのはぁ……好きじゃありません……」

「お前の大好きな苦痛なのにか?」

「く、苦痛が大好きだなんて言った覚えはありませんっ……!」


 いつになくテンションが低いディーネのことはひとまず放っておくとして、早速覚えた魔法を使ってルーノスへ帰ることにしよう。


「あのぉ……マシロ様……?」


 魔法を詠唱しようとしたその時、へばっていたディーネが突如として俺の肩を叩いた。


「今度はどうしたんだ?」

「あちらは……見ておかないのですかぁ……? おそらく、火の精霊があなたを待っていると思うのですがぁ……」


 そう言ってディーネが指さした先は、来た道の反対方向――行き止まりになっていたはずの壁である。


 そこには、神聖な雰囲気を放つ扉が出現していた。


 ……そういえば、このダンジョンには火の精霊が居るんだったな。


 力を奪っていたファイアドレイクを討伐したことで無事に解放され、「精霊の間」へ行けるようになったのだ。


「………………」


 しかし、ウンディーネという前例があるので何となく躊躇われるな……。


「……仕方がない。様子だけは見ておくか」


 かくして、俺はディーネを連れて火の精霊が待つ「精霊の間」へと足を踏み入れるのだった。

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