第41話 観光客、火竜と戦う
「……到着したぞ。どうやらここがダンジョンの一番奥みたいだな」
探索の末、袋小路になっている広々とした空間にたどり着いた俺は、火属性攻撃を受け続けたことで顔を真っ赤にしているディーネに向かってそう言った。
すると、ディーネは額の汗を拭いながらキョロキョロと周囲を見回す。
「あのぉ……ファイアドレイクが見当たらないようですがぁ……?」
「気をつけろ。間違いなく近くに潜んでいるはずだ」
俺が注意を促した次の瞬間――
「グオオオオオオオオオオッ!」
魔物のけたたましい鳴き声が響き渡り、空間全体が揺れた。
「――上だ!」
ヤツの気配に勘づいた俺はとっさに叫ぶ。
「ふえぇ……?」
そして巨大な翼を持った赤い竜――ファイアドレイクが、天井から俺達に向かって急降下してくるのだった。
「きゃあああああああんっ!?」
反応が遅れたディーネは、あっさりと上空へ連れ去られてしまう。
「あっ、大きな爪が……私のことをきつく締め付けていますぅっ……!」
「やれやれ……」
まさか、己の欲望を満たすためにわざと攻撃を受けたわけじゃないだろうな……?
「申しわけありません……マシロ様あぁぁぁぁぁぁ……!」
俺に対する謝罪の言葉を述べながら、だんだんと地面から引き離されていくディーネ。
火炎対策はばっちりだが、あの高さから叩き落とされるとひとたまりもないだろう。
「いきなり盾役が離脱するとはな……」
俺は肩をすくめてそう呟きながら、あらかじめ準備しておいた魔法の杖(10%オフのお手頃価格で1800¥$)を取り出した。
この杖は、あらかじめストックされている魔法を使用者の魔力に依存することなく放つことができる優れモノだ。
基本的には魔道具屋で購入することができるが、ダンジョン内にも割と落ちている。誰が落としたのかは深く考えない方が良いだろう。
遺品だと思うと使いづらいからな。
「ひゃあっ! もっとぉっ、やさしくっ、持ってくださいぃっ! あぁんっ!」
「ディーネ。なるべく縮こまっていろ」
「はっ、はぃっ!」
俺はディーネを乱暴に掴んでいるファイアドレイクの前脚に狙いを定め、魔法の杖を振る。
すると、杖の先から尖った氷の塊が勢いよく射出された。
――この杖にストックされているのは「アイシクルランス」の魔法十回分だ。冷気が弱点であるファイアドレイクにはかなりの有効打となるだろう。
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「きゃああああああああああああああっ!」
前脚にアイシクルランスの直撃をくらったファイアドレイクは、つんざくような悲鳴を上げながらディーネを手放した。
「うっ、受け止めてくださいいぃマシロ様あぁぁぁああっ!」
空中で突然放り投げられたことでバランスを失い、涙を流しながら俺に向かって落下してくるディーネ。
俺は思考を巡らせて受け止める方法を考えるが、あることに気づいたので最小限の動きでディーネを回避した。
「えぇぇっ?!」
「魔法を使え」
「ウォーターバリアぁっ!」
ディーネは普段の話し方からは想像もできないような早口で魔法を唱え、水の膜で全身を保護することによって落下の衝撃に耐える。
「うぅぅ……ひっ、ひどすぎますぅ……!」
全身水浸しになりながら俺に抗議してくるディーネ。
見ての通り、ウォーターバリアを使えば落下ダメージをなくすことが可能だ。
「たまには……ムチだけでなく、アメをくださってもいいのですよぉ……? 私をいっぱい虐めて楽しむだなんて……酷いご主人様ですぅ……はぁ、はぁ、はぁっ……体の震えが……止まりません…………っ!」
危うく騙されて受け止めるところだった。どうやらこの場には魔物が二体存在していたらしい。
……ディーネの相手をしていると、リースがいかに善良な魔物であったかを思い知らされるな。
「――遊んでいる暇はないぞ。今は戦闘に集中しろ」
「私はいつだって真剣ですよぉ……?」
それからすぐ、態勢を立て直したファイアドレイクが上空から炎のブレスを吐いてきた。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「危ないですマシロ様ぁっ!」
ディーネは俺を庇うようにして前に立ち、再びウォーターバリアを張り直す。
俺はその隙に持っていた聖水(ディーネからの搾りたて)を辺りに振りまいた。これによって三重の火炎耐性が完成し、ブレスのダメージが大幅に軽減される。
「あぁんっ! すごく……熱い……ですぅ……っ! はぁ、はぁ……っ」
ディーネが嬉々としてブレスを引き受けてくれている間に、俺は再びアイシクルランスの杖を振りかざした。
「くたばれ!」
今度は五つの尖った氷を生成し、それら全てをファイアドレイクに向かって放つ。
「グギャアアアアアアアアアアッ!」
ウォーターバリアによって展開された水を巻き込んで巨大化しながら飛んでいった五回分のアイシクルランスが、ヤツの身体の至る所を貫いた。
「グッ、ガアアアァァァッ!」
いくらファイアドレイクといえども、連続でくらえばひとたまりもないだろう。
「あぁっ……熱いのが……終わってしまいましたぁ…………」
どうやら勝負はついたようだな。
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