第40話 観光客、炎のダンジョンに挑む
ファイアドレイクの討伐依頼を受けて冒険者ギルドを後にした俺とディーネは、町で必要なアイテムを揃えてから『岩窟』の前までやって来ていた。
このダンジョンは町から少しだけ雪山を上った場所に存在し、寒い外と違って内部は溶岩が流れていて気温が非常に高いため、火炎に対する耐性が無ければ継続的にダメージを受けてしまう。
もっとも、ディーネと俺は水の精霊との契約によって火炎耐性を獲得しているので問題ないがな。
「それじゃあ、行くとするか」
「これから……私がいっぱい攻撃を受けて、燃やされて、痛めつけられて……マシロ様をお守りするのですねぇ……! はぁ、はぁ……!」
「そうだな。よろしく頼む」
「私が倒れれば、マシロ様の命はおしまい……つまりっ、運命共同体ということですねぇ……っ! 苦しくても気絶できないなんてぇ……あぁああああっ……!」
「……………………」
実際のところ、万が一ディーネが倒れても俺一人でどうにかする準備はしてある。
万が一炎上した時に振りかける聖水も大量に用意させてあるしな。ディーネに。
……だが、本人のやる気を邪魔しない為にも黙っておこう。
「……程々に頑張ってくれ」
俺はそれだけ言ってさっさとダンジョンの中へ入ることにした。
「ま、待ってくださいマシロ様ぁ……先頭は私が歩きますぅ……っ!」
*
岩窟に出現する主なモンスターは、マグマスライム、レッドワーム、フレイムウィスプといった火炎系ばかりだ。
「グツ、グツ……ドロォ……ッ!」
「ボオオオオオオオオオオオオオッ!」
「あんっ……あついっ! 身体からぁっ……お、温泉が湧いてしまいますぅ……っ!」
ディーネは意味の分からないことを言いながらモンスター達の火属性攻撃を引き受け、立派に俺の盾としての役目を果たしている。
「楽しそうだな」
「と、特にっ……マグマスライムの……攻撃が……熱くて、ドロドロでぇ……頭がどうにかなってしまいそうですぅ……っ!」
楽しそうというよりは満喫しているな。
「……って、何を言わせるのですかぁ……っ! いじわるですぅ……マシロ様ぁ……!」
「お前が一人で勝手に説明しただけなんだが……」
やれやれ。本当に付き合いきれないぞ。早くダンジョンを攻略して帰ろう。
「マグマスライムと遊ぶのもいいが、今の目的はファイアドレイクの討伐だ。先に進むぞ」
「あっ、遊んでなんかぁっ……いっ、いませんよぉ…………マシロ様をお守りしてるのにぃ……っ」
ディーネはそう言って、慌てた様子で俺の後を付いてきた。
「危ないのでぇ……私より先に進んではダメですぅ……!」
全身マグマスライムの残骸まみれである。流石は水を司る精霊の化身だ。熱に対する耐性が強い。
「あぁ……そういえば……」
俺の正面まで回り込んできたディーネは、べちょべちょとマグマスライムの破片を飛ばしながらこう言った。
「このダンジョンの奥から精霊の気配を感じるのですがぁ……マシロ様は何かご存知でしょうかぁ……?」
どうやら、ディーネは同族の気配を感じ取れるようだ。
「……なんだ知らないのか? ここには火の精霊が住み着いているんだ。、火山の活動を管理するためにな」
実を言うと、ルーノスの雪山は活火山だという設定がある。町で温泉が湧いているのもそのためだ。
もっとも、数百年前から休眠状態で水の精霊のようには信仰されていないうえに、現在はファイアドレイクに力を吸われて悲惨なことになっているが。
「なるほどぉ……火の精霊ですかぁ……」
ディーネはそう呟いて少し考える素振りを見せた後、こう言った。
「ま、まさか、私から乗り換えるつもりではありませんよねぇ……!?」
「なるほど。考えていなかったが、それもありだな」
「ふえぇっ……!」
「…………冗談だ」
ギルドに居た冒険者の話を聞いた限りだと、他の精霊もウンディーネと大差なさそうだからな。きっとろくでもないぞ。
「ふぅ……びっくりしましたぁ……。やっぱり、マシロ様は私のことを大切にしてくださっているのですねぇ……!」
一人で勝手に感動している様子のディーネ。そう思われていた方がこちらとしても好都合だ。
「ああ、その通りだ。だから盾として立派に――」
俺が言いかけたその時、突如としてダンジョン全体が大きく揺れた。
「なっ、何事でしょうかぁ……?」
「……ファイアドレイクが近いようだ。おそらく、俺達の侵入に気づいて怒っているのだろうな」
「つまりぃ……いよいよ決戦の時……というわけですねぇ……!」
かくして、俺とディーネは一度態勢を立て直し、ダンジョンの最深部へと進んでいくのだった。
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