俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラスごと転移したが、目覚めたジョブが最弱職だったので追放された件〜
第39話 死霊魔術師、クラスメイトの試運転をする
第39話 死霊魔術師、クラスメイトの試運転をする
――明くる日の朝。
「ほら、早く歩きなさい……」
「うぅ……っ」
「……………………ちッ」
私のことを虐めていたかつてのクラスメイト、『ルナ』と『キララ』をアンデッドにした私は、試しに近くの森林ダンジョンへと挑んでいた。
王都付近に存在する『魔窟』以外のダンジョンには基本的に強い魔物が出現しないから、アンデッドの使い方を練習するのにはちょうどいい。
「はぁ。やっぱり、ゾンビは遅いのね……」
当たり前だけど、前を歩いているのはルナとキララだ。
だって私の盾になってもらわないと困るから。
「ひっぐ……もう嫌だよぉ……っ」
めそめそと泣いて居るルナは、すでに三回ほど罠に引っ掛かっている。頭に矢が三本も刺さっているけれど、見た目が面白いから抜いてない。
本人も自分で矢を引き抜くのは怖くて出来ないらしい。
ちなみに、キララはまだ罠にかかっていない。ルナと比べて勘が鋭いのかも。
「…………ぶっ殺してやる」
――そんなことを考えていると、ルナの隣を歩いていたキララがぼそりと呟いた。私は地獄耳なのでもちろん聞き逃さない。
「ねえ、誰を殺すつもりなのかしら……? キララ、ちゃん……?」
「ひっ……!」
キララのことを問い詰めていると、すぐ近くにゴブリンが居ることに気づいた。
「ちょうどいいわ。……あなた、アレと戦って来なさい。まだこっちには気付いてないみたいだから……」
そう言って茂みの向こう側を歩いていたゴブリンを指さすと、キララはガタガタと震え始める。普段は威勢がいいのに、魔物と戦うのはそんなに怖いのかしら?
「一番弱い魔物だから……死ぬ気で殴り合えば今のあなたでも勝てるわ」
……キララはもう死んでいるけれど。
「いっ、いや……!」
「ぶっ殺してやりたいのでしょう……? 遠慮する必要はないわよ……早く倒してきなさい」
「ぅ……あ……!」
私が【支配】のスキルを発動して命令すると、キララはよろよろとゴブリンの方へ歩いていく。
「ふふふふっ……!」
とってもいい気味だわ。
そう思った次の瞬間――
「ひっ、ヒールウインドっ!」
「…………は?」
キララは自分に向かって回復魔法を唱えた。
「ぎゃあああああああああああああっ?!」
アンデッドは種族の特性として回復魔法でダメージを受けるようになっているので、当然のごとく苦しみ始めるキララ。
「……何をしているの?」
「な、なんでっ! なんで回復できないのよっ! う、ぐあああああああッ!」
「どうしてこのタイミングで回復なんか……」
「あぎゃーーーーーーーーーーーーっ!」
かくして、キララは私の目の前で自分の回復魔法よって浄化されて死んだ。
「………………?」
ひょっとして、私の命令に背くためにわざわざ自殺したのかしら? ネクロマンスの魔法を使えば簡単に呼び戻せるのだけれど……。
「……ルナ」
「ひいぃっ?!」
「仕方ないから、あなたが代わりにゴブリンと戦いなさい」
「あ……ぁあ……っ!」
自分の番が回って来るとは思っていなかったのか、悲鳴のような返事をしてゴブリンへと近づいていくルナ。
「ぐぎゃ? グギャギャギャギャッ!」
すると、彼女の存在に気付いたゴブリンが雄たけびを上げながら飛び掛かる。キララが叫んだせいで向こうもこちらの存在に気づいていたらしい。
「エクスプロードっ!」
「あ」
ルナは至近距離まで迫ったゴブリンを相手に爆発魔法を放ち、そして――
「ぐぎゃあああああああああああああッ!」
「いぎゃやああああああああああああッ!」
ゴブリンと一緒に爆発魔法に巻き込まれて死んだ。
「……………………」
やっと分かった。馬鹿なんだ。
アンデッドになって知能が退行したせいで馬鹿さ加減に磨きがかかっているということね……!
「つまり……AIが馬鹿すぎるんだわ……!」
まさかここまで間抜けだなんて……思ってもみなかった……。
「なら、二体だけじゃ全然足りない……もっと――――もっと手駒を増やさないと……っ!」
私は親指の爪を噛みながら呟いた。
「強くて賢いアンデッドじゃないと……マシロくんを助けるどころか……足手まといになるだけだわ……ッ! クラスメイト狩りをしましょう……!」
かくして、私の今後の方針が決まったのだった。
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