俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラスごと転移したが、目覚めたジョブが最弱職だったので追放された件〜
第29話 観光客、期待の新米冒険者になってしまう
第29話 観光客、期待の新米冒険者になってしまう
その後、発狂してしまったタカシ
鉄の扉はすでに開きっぱなしになっていたので、中へ足を踏み入れて様子をうかがう。
すると、何故かベルとリースは縛られた精霊を見つめたまま立ち尽くしていた。
「どうしたんだ、ベル? 水の精霊が鎖で縛られたままだぞ」
「ご主人様……そ、それが……」
俺の問いかけに対し、何やら気まずそうなベル。
「あたしの手には負えないわ……」
何故かリースの方は疲れ果てている様子である。
訳がわからず、俺は鎖に繋がれているウンディーネの方を見た。
「はぁ、はぁ……仲間を、呼んだのですね……! 身動きの取れない私を大勢で取り囲んで……太くて硬い鞭で、じっくりといたぶるつもりなんですねぇっ!」
「あの精霊さん、自分で体に鎖を巻き直したんです……」
ベルはあられもない姿で縛り上げられているウンディーネを指差して言った。
「私は例え……身体を鞭で打たれても……目隠しをされてろうそくを垂らされても……人には言えないあんなことやこんなことをさせられてもっ……絶対に屈しませんっ! さあ、教えてください……っ! 私に……一体どんな酷いことをするおつもりなのですか……!」
顔を紅潮させ、期待と興奮が混ざったような眼差しで俺のことを見つめてくるウンディーネ。下半身のヒレはビチビチと動いていた。
「……よし、帰るか」
「お待ちなさいっ! 放置するのですねっ! また放置するおつもりなのですねぇっ! 一体どこまで焦らせば気が済むのですかぁっ!」
……その後、俺たちは何故か抵抗するウンディーネを強引に救出し、縛り上げたシュウジを回収して下水道を後にした。
このゲームに登場する大半のキャラクターには「性格」という隠しステータスがランダムに設定されているので、こういった事故もあるのだ。たぶん。
*
水の精霊を救出し、ついでに誘拐犯という手土産を持って冒険者ギルドへと帰った俺は、他の冒険者の注目の的になってしまった。
「まさか、あの短時間でいなくなったウンディーネ様を見つけちまうなんてな……!」
「うおおおおおおおッ! すごすぎるぜ異界人のマシロ!」
「マシロ! マシロ! マシロ!」
「マシロォーーーーーーーッ!」
気付くと屈強な男たちに四方を取り囲まれ、そのまま胴上げされてしまう。
「やれやれ……」
空中高く放り投げられながら肩をすくめる俺。やはり冒険者というのは野蛮だな。
「おまけにそのクールな態度……最高にいかしてるぜッ!」
「うぉおおおおおおッ! マシロぉーーーーーーッ! オレとパーティを組んでくれぇーーーーーーッ!」
「マシロ! マシロ! マシロ!」
身動きが取れなくなってしまった俺は、ベルとリースの方へ目をやり助けを求めるが、二人はにこやかに拍手を送ってくるだけだった。
まったく……友好的なNPCに自分から攻撃できないのは
「ところで、タカシツーはどうなったんだ?」
ふと気になった俺は、冒険者たちに胴上げされながら問いかける。
「ああ、今頃は牢屋で兄弟同士よろしくやってることだろうぜ!」
「……それにしても、タカシツーってのはとんでもないヤツだよな! ウンディーネ様を攫って……あんなことやこんなことをしようとしていたなんて……!」
それは本人が望んでいたことだが。
「許せねぇぜ! 死刑だなァ!」
「死刑! 死刑! 死刑!」
「火あぶりにしちまおうぜ!」
まったく。この王国の人間はみんなこうなのか? 極端な奴しかいないじゃないか。
まあ、タカシブラザーズに関しては俺と違って自業自得だがな。配管工の風上にも置けない奴らだ。
――そうして、しばらく胴上げされた後、
「……そういえば、ウンディーネ様がお主に改めてお礼をしたいそうじゃぞ」
やっと床に下ろされた俺に向かって、ギルドマスターがそんなことを言ってきた。
「ウンディーネ様が直々に……!?」
「すごいことじゃないか! 早く行ってやんな!」
「報酬の支払いはその後じゃ。大金なんで準備が必要でのう」
かくして、俺たちは何故かやたらと馴れ馴れしい冒険者どもに送り出され、ウンディーネの待つ神殿へと向かうことになったのだった。
変態精霊の呼び出しなど受けたくないんだがな……。
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