第28話 観光客、クラスメイトの心を折る


「じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜぇッ! クソ野郎がああああッ!」


 ――そして数分後。


「トリプルアロー!」

「マジックアロー!」

「ぐああああああああああああああッ!」


 シュウジはベルとリースの十二連続攻撃をくらい、派手に吹き飛んだ。


 通路の先にある水路へ落ち、水しぶきを上げる。


「……よくやったぞ二人とも。後は下がっていろ。向こうの部屋の精霊を解放してやるんだ」


 俺は二人にそう指示を出し、シュウジを回収するため水路へ近づいていく。

 

「ぐっ……くそぉ……ッ!」


 どうにか汚水から這い上がり、惨めに地べたへ這いつくばりながら俺のことを睨みつけてくるシュウジ。汚い。


 そして全面的にお前が悪いので、俺が恨まれる道理はない。恥を知れ。


「……一応、理由くらいは聞いておいてやろう。何故水の精霊を連れ去った?」

「てめぇに答える義理は……な――」


 俺は微塵の躊躇もなくシュウジの右手を踏み付けた。


「ぐあああああああああああああッ!」


 絶叫し、苦痛に悶えている様子のシュウジ。実に悲惨な有様だな。


「……何故連れ去った?」

「……クソ……がぁ! この、程度で……俺が話すわけ……」

「仕方がない。ベルとリースにもう一度連続攻撃をしてもらうか」

「――全てお話しします」


 やれやれ、最初からそうしていれば無駄に苦しまず済んだのにな。素直じゃない奴だ。


「言う気になったのであればさっさと質問に答えろ」

「俺と契約するのを……拒否しやがったからだ……!」

「……………………」


 俺は絶句した。たったそれだけの理由なのか? 短絡的にもほどがあるだろ。


「シュウトの仇を討つために……少しでも力が欲しかったんだ……! それなのにアイツは……俺の心が濁ってるから契約はできないだとか……ワケわかんねぇこと言いやがって……ッ!」


 水の精霊の人を見る目は確かなようだな。


「だから首を縦に振るまで嬲ってやるつもりだったんだよッ! これで理由は分かっただろ!」

「まったく……呆れてものも言えないな」


 どこまでも愚かでつまらない人間であるコイツに興味を失った俺は、ひとまず踏みつけていた足を退ける。


 しかしその時――


「だから……まだ足りてねぇんねぇんだよッ! あのクソ精霊を半殺しにするまで俺は止まらねぇぜッ!」


 シュウジは、最後の力を振り絞って何らかの魔法を発動した様子だった。


「……貴様、何をした?」

「へっへっへ……すぐに分かるぜ……!」


 シュウジがそう言って不敵に笑った次の瞬間、下水道全体が揺れ始める。


「感じるだろ? 恐ろしい気配が近づいてきているのを……!」

「いや、別に」


 ――程なくして、シュウジの背後にある水路を流れている水が大きく隆起した。


 そして、その水が泥のように濁り始め、やがて巨大な魔物へと変化していく。


「出でよマッドゴーレム! コイツを殺せ!」


 刹那、シュウジが叫んだ。


「どうだ! 召喚術師サモナーである俺の手札はまだ尽きちゃいないぜッ! お前にあの魔物が倒せるかなァ?!」

「なるほど……マッドゴーレムを従えていたのか」


 一応この下水道ダンジョンの本来のボスがマッドゴーレムだ。


 ただし、ダンジョン内をランダムで徘徊しているタイプのボスなので、いつ遭遇するかは分からない。


 今回は一向に出会わないと思っていたが、まさかコイツが従えていたとはな


「ドロオオおおオオおおおおおお!」


 シュウジによって召喚されたマッドゴーレムは、泥で出来た巨大な腕を俺に向かって振り下ろしてくる。


 このままだと、お前も一緒に潰されて死ぬことになると思うのだが、この馬鹿はそれで良いのだろうか?


 俺はそんなことを思いつつ、【収納】していた浄化の巻物を取り出して広げる。


「不浄を清めろ」


 そして簡易的な詠唱によって浄化の魔法を発動させ、マッドゴーレムの泥を吹き飛ばした。


「ど、ドロぉ……」

「………………は?」


 瞬く間に小さくなっていき、やがて跡形もなく消え去るマッドゴーレム。


「知らなかったのか? マッドゴーレムにはこの町の魔道具店で売っている『浄化の巻物』が物凄く効くんだ。救済要素のようなものだな。――ただし経験値は手に入らないが」

「な、なんだよ……それぇ……!」

「元々、マッドスライム自体は戦うメリットがないので問題ないな」

「…………………………」


 かくして、俺はあっさりと戦いに勝利したのだった。


「ひひひっ、あひゃひゃひゃひゃっ!」


 俺に手も足も出ずに負けたという事実を受け入れられなかったタカシブラザーズ(弟)は、精神が崩壊してしまったらしい。やれやれだな。





 *ステータス*


【シュウジ】

 種族:異界人 性別:男 職業:召喚術師サモナー

 Lv.7

 HP:2/112 MP:4/209

 腕力:17 耐久:15 知力:37 精神:32 器用:21

 スキル:精霊契約、魔物隷属、魔力制御

 魔法:召喚(マッドゴーレム、スライム、ゴブリン)

 耐性:なし

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