俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラスごと転移したが、目覚めたジョブが最弱職だったので追放された件〜
第25話 観光客、謎の大事件に巻き込まれてしまう
第25話 観光客、謎の大事件に巻き込まれてしまう
翌日の朝、俺たちは依頼を受けるために再びギルドへと赴く。
「おい、見てみろ! あれが噂の……!」
「同族狩り……異界人殺し……!」
「マシロ・カンノンザキ……!」
重厚な扉を開け、冒険者ギルドの中へと足を踏み入れた途端、周囲に居た冒険者たちがざわつき始めた。
「ご主人様……なんだか様子がおかしいです……っ!」
異様な雰囲気を感じ取り、俺の右腕にぎゅっとしがみついて怯えるベル。……戦えるようにはなったが、相変わらず怖がりのようだな。やれやれだ。
「あたしたち……食べられちゃうのかしら?! やめてっ! わるい魔物じゃないの
っ!」
リースはいつも通りだ。特に問題はない。
「見るからに弱そうなんだがな……」
「冒険者っていうよりは、ただの観光客って感じだぜ……!」
「お前ら『異界人は見かけによらない』って言葉を知らないのか? 舐めてかかると火傷しちまうぜ?」
しかし、ずっとざわついているだけで俺たちに絡んでこようとする冒険者はいないので、このまま目的を果たすとしよう。
「……周りはあまり気にするな。行くぞ二人とも」
俺はギルドのど真ん中を突っ切り、掲示板へと向かう。そして、貼りだされている依頼を確認した。
お目当ては「下水道の大掃除」と題されているクエストだ。
下水道の水は、通り道に組み込まれている「浄水の魔石」というアイテムによって浄化されているのだが、魔石が浄化を行う際に淀んだ魔力――「瘴気」が発生し、そこから魔物が生まれてしまう。
それらを定期的に駆除する為に、こうして冒険者を募っているのだ。報酬は「浄化の魔石」と討伐した魔物の数に応じたお金である。
下水道ダンジョンを攻略するつもりなら、とりあえず受けておいて損はない。
「あった、これだな」
俺は依頼について書かれた紙を発見し、それを剥がそうとする。
しかし――
「緊急クエストじゃあッ!」
突如として二階にあるギルドマスターの部屋の扉が開き、中から出てきた爺さんが叫んだ。
「…………うん?」
何だこの展開は。原作で見た事がないぞ。
「今より、全ての依頼の受注を一時的に停止する! その代わり、総員こちらの任務に当たるのじゃ!」
そう言って、二階から大量の用紙をばらまくギルドマスターの爺さん。
「やれやれ……そんなに騒いで、一体何ごとだ?」
俺は近くに落ちてきた紙を掴み、内容を確認した。
そこに書かれていたのは以下の通りである。
※※※※※※※※※※
*緊急クエスト――水の精霊の大捜索*
この町の守護精霊であるウンディーネ様が行方知れずとなっている。
発覚したのは本日の早朝。ウンディーネ様が神殿の巫女の呼び出しに応じなかった為「精霊の間」を確認したところ、精霊様の姿は見えず、その場には酷く荒らされた形跡があった。
クレインの評議会は精霊様が何者かに誘拐されたものとみて、衛兵に町と海上の捜索をさせている。
冒険者である君達が捜索する場所はこの町の地下、複雑に入り組み魔物が徘徊する下水道だ。もしウンディーネ様が何者かに誘拐されたのであれば、犯人は一時的に下水道へ身を隠す可能性が高いと睨んでいる。
騒ぎを必要以上に大きくしないためにも、まずは町民には知らせず、冒険者と衛兵のみで捜索を行ってもらいたい。
協力者には5000¥$、ウンディーネ様を発見すれば更に30000¥$を支払うので、心して任務に当たるように。
※※※※※※※※※※
「嘘だろ?! ウンディーネ様が?!」
「なんてことだ……! もうこの町は終わりじゃないかッ!」
俺が依頼文を読み終わるのとほぼ同時に、事態を把握した冒険者たちが大騒ぎし始める。
「ますたー、何があったの?」
あまり状況を理解していないリースは能天気に聞いて来る。
――精霊とは、女神が遣わした神聖な存在だ。
信者に対して平等かつ中立である女神と違って、精霊たちは明確に契約を交わした相手の味方である。
ウンディーネは水の都に居る女神の信者達のために遣わされた存在で、何百年にも渡ってクレインを様々な脅威から護ってきたのだ。
居なくなれば都の機能は停止し、時をおかずしてクレインは廃都と化すだろう。
俺はリースに対して手短にそんな説明をした
「それじゃあ……た、大変なことじゃないっ! どうしましょう?! どうすればいいのかしらっ?!」
慌てふためくリースを横目で眺めながら、依頼の用紙を丸めて【収納】する。
「……元より、今日は下水道のダンジョンを攻略するつもりだったんだ。何もやることは変わらない。――出発するぞ、リース、ベル」
かくして、俺は他の冒険者よりも先にダンジョンへ潜る為、そそくさとギルドを後にするのだった。
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