第24話 観光客、水の都の名物を食す


「やれやれ、俺のクラスメイトにはろくな奴が居ないな。……もっとも、始めから分かっていた事だが」


 タカシの賞金を受け取り、冒険者としての登録を済ませて一度ギルドの外へ出た俺は、肩をすくめながらそう呟いた。


「この調子だと、他にも何人か賞金首になっているかもしれないな……」


 しかしそうなれば、魔王を倒す為とはいえ、よく分からない異界人を召喚してこの世界に解き放った王は責任を問われるのではないだろうか。もしそうなったら、実にいい気味だな。革命の時は近い。


「ご主人様は……今までずっとあんな人達に囲まれていたんですね……かわいそうです……」


 先ほど俺がタカシについて解説したことで大まかな事情を知ったベルは、何故か哀れみの目を向けてくる。やれやれ、別にかわいそうって程ではないんだがな。


 過剰に反応しすぎだぞ。


「……同情するわ、ますたー……なんてかわいそうなの……っ!」


 リース、お前もか。


「だから今日は、私がご主人様の頭をなでてあげますね!」

「あっ! 抜け駆けはずるいわよ! あたしもますたーのことなでるっ!


 二人は互いに背伸びをしながら、俺の頭へ手を伸ばす。


「………………ふむ」


 確かに、俺はかわいそうなのかもしれないな。今まで気付かなかったぞ。


 ……だが、どうでもいい話だ。


「ベル、リース。明日からはダンジョンの攻略で忙しくなる。今日のうちに観光しておきたい場所があれば言うといい」


 俺は頭をなでなでしようと試みている二人のことを軽くいなしつつ、そう問いかける。


「私はまたに乗りたいですっ!」

「ゴンドラか……言うと思っていたぞ、ベル」


 こちらの答えは想定通りだな。


「あたしは……」


 リースはそこまで言いかけたところで、お腹が鳴った。


 それ以降は何も言わず、恥ずかしそうに顔を赤らめるリース。


「……せっかく水の都に来たんだ。魔法は使わずに、この土地の料理をいただくとするか」


 俺がそう提案すると、二人はコクコクと頷いた。


 勿論、移動にはゴンドラを使った。実に観光客だな。どうやら、俺の職業ジョブもだいぶ板についてきたようだ。


 そして夕食は、水の都クレインの近海に生息する海魔『クラーケン』のコース料理を提供してくれるレストラン『ルルイエ』で食べることになった。


 野生的な食事スタイルの二人に最低限のテーブルマナーを教えるには、こういう店で食事をするのが最適だと思ったからだ。


 肝心の料理だが、前菜に『クラーケン足とレッドマンドラゴラのマリネ』、その次が『クラーケンすみのパスタ』、メインが『クラーケンの吸盤ステーキ』、デザートには『クラーケン墨入りティラミス』が提供された。


「ごっ、ご主人様……! これは……本当に食べても大丈夫なんですか……っ?!」

「俺にも分からない」


 見た目はどれも冒涜的だったが、味の方は意外と美味しかった。


「これ……美味しすぎるわ……ッ! 濃厚なクラーケン墨がしっかりとパスタに絡み合って漆黒を生み出し、口に入れた瞬間にあたしを真っ暗な深海へと連れて行ってくれる……! まるで全身がクラーケンの触手に温かく包み込まれてしまったかのような、優しくてネットリとした味わいね……っ!」

「お前は何を言っているんだ……?」


 リースに至っては見た目すら気にならないようで、普通に喜んで食べていたがな。


「お腹いっぱいです! もう、食べられません……!」

「あたしも……幸せ……。星三つよ……!」


 ……とにかく今は、口の周りが墨で真っ黒になっている二人を「クリーン」で綺麗にしてやらないといけない。


 まったく、世話のやける仲間ペットだ。やれやれである。


 ――ちなみに他の客が話していたのだが、この店には裏メニューが存在するらしく、常連になると海神『クトゥルフ』のコース料理が食べられるようになるそうだ。


 クトゥルフは滅多に手に入らない貴重な食材なので、表向きには出回らないようである。


 食べると正気を失うくらい美味しいらしいので、興味があるならこの店に通い詰めるのも手だな。


 もっとも、俺は美食家ではなく、あくまで観光客なので深入りはしないが。


「……それじゃあ、今日はもう休むとするか。――二人とも、宿屋に行くから準備をしておけ」


 店から出てすぐに俺はそう言った。町中では「ステイ」を使うことができないので、必然的に寝泊りする場所も通常の宿屋だ。


 つくづくよく分からない能力だぜ。

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