第23話 死霊術師、アンデッドを増やす


 ルナをアンデッドにした私は、一度王城に戻ってクラスメイト達の様子を探ることにした。


 盗み聞きした話によると、どうやらパーティを全滅させておきながら自分だけ復活して戻ってきたことで勇者の学級委員長クズは急速に支持を失い、クラスはバラバラになってしまったらしい。


 既に城を出て行った生徒のうち数人はこの世界のことを知っている様子で、抜け駆けしようと企んでいるみたいだった。


「ルナ。……キララが外に出てきたら……あなたが誘い出しなさい……」


 一通り情報収集を終えて夜になり、城の外にある庭園の茂みに身を隠した私は、ルナに向かってそう指示を出す。


「キララちゃんに……何するつもりなの……?」


 持っていた杖をぎゅっと握りしめて聞いて来るルナ。


「…………口答えは求めていないのだけれど」

「ご、ごめんなさいっ!」


 レベルが低いせいか、彼女は時々私の命令に反抗してくる。


 もっと痛めつけてあげた方が良いのだろうか。私がされていたみたいに。


「く、クロエちゃんに言われた通りにするっ……!」

「最初から……素直にそう言っていればいいの。……やれやれね」


 そうやって、マシロくんの口調を真似することで苛立つ心を落ち着かせていたその時――

 

「だ、誰か……出てくるよ……っ!」


 ルナが声を押し殺すようにして言った。真剣な表情をしているので、私の気をそらすための嘘ではなさそうだ。


「……あれは」


 しばらく城の入口に注視していると、見覚えのあるクラスメイトの三人組が外へ出てきた。


「ふーん。まあ、好きにすればいいんじゃない? オレは行くつもりだけど」

「俺も根性で相棒について行くぜっ! 待っててくれよ相棒ーーーーッ!」

「ボクは……まだ決めてないな。――このままリーダーの座を奪い取るっていうのもアリかもね」


 氷室ひむろ櫂斗かいと桐生きりゅうひろし、そして天王寺てんのうじ凛央りお


「つまり行くってことだよなッ! 流石はリオだぜ!」

「……どうしてそうなるんだい? お前はマシロの次くらいに話が通じないね」


 どうやら、次は誰が学級委員長クズとパーティを組むか話し合っているらしい。私の目の前でマシロくんを侮辱した罪を今すぐ償ってほしいところだけれど、今飛び出しても勝ち目は薄い。


 ……ここはぐっと我慢するしかなさそうだ。私は血が出るくらい強く唇を噛む。


「お前はどうするんだッ!」


 するとその時、阿保のヒロシが背後へ振り返って誰かに問いかけた。


「アタシは……もう少し、一人で考えさせて」


 そんな言葉と共に城の外へ出てきたのは、お目当てのキララである。


 キララは顔を伏せているため、あまり表情が見えない。


「信じて待ってるぜキララ! 俺たちは先に相棒の所へ行く! ――友達だからなッ!」

「ヒロシ……」


 そんなこんなで間抜けな三人組が城へ戻っていき、キララ一人だけになった。こんなに早くチャンスが訪れるなんて想定外である。


「……ひひっ、いひひひひひひひッ!」


 あまりにも愉快で、笑いを抑えられない。


 当てもなく庭園を歩きまわるキララの後をつけ、どうにか息を殺してタイミングをうかがう。


「はぁ……、アツト……みんな……」


 しばらくすると、キララが独り言を呟き始めた。まさかクラスメイトの死を悲しんでいるの……?


「マジ使えない! アイツらそんなに雑魚だったの?!」


 ありもしない考えが私の脳裏をよぎるのとほぼ同時に、悪態をつき始めるキララ。


「何も出来ないで死ぬとか、マシロ並みに役に立たない無能じゃないッ! せめてアタシの盾になって死になさいよッ! ホント使えない! ……アタシじゃなくてルナを行かせて良かったわ!」


 ……そう、これこそがあの女の本性だ。


「ぐすっ、キララ……ちゃん……」

 

 ぶりっ子のルナと、猫かぶりのキララ。いつも一緒につるんで友達のフリをしていたけれど、本当は見下し合っていたことを私は分かっている。


「――行きなさい、ルナ。……見ての通り、キララはあなたのことを……何とも思っていないわ」

「…………うん、分かった」


 今度は素直に頷き、茂みから飛び出してゆっくりとキララへ忍び寄っていくルナ。ふらふらした足取りだが、この世界の知識がない人間にアンデッドだと見抜かれることはないだろう。


「クソっ! クソクソクソクソクソッ!」

「キララちゃん……」


 ルナはひたすら文句を言い続けるキララに背後から忍び寄り、そっと声をかける。怒りと悲しみの混じった声だった。本当に、悲劇のヒロインぶるのが上手ね……。


「え……?」

「キララちゃん……」

「いやああああああああああッ!?」


 目の前に死んだはずのクラスメイトが現れ、絶叫しながら尻餅をつくキララ。叫び声で誰かが寄ってきてしまうかと思って周囲を警戒したけれど、ここには人気ひとけがないので大丈夫そうだった。


「キララ……ちゃん……」

「な、なんであんたが……ッ!」


 私は身動きができないでいるキララの背後に回り込み、こう問いかける。


「うふふ……っ、どうして……だと思う……?」

「ひぃッ?!」


 そうして、声をかけられた瞬間。


「――どうしてッ!」

「ぎゃっ?!」


 ルナがキララの後頭部に目掛けて、持っていた杖を振り下ろした。


 短い断末魔を上げて、地面に血だまりを作るキララ。


「……あーあ、やってしまったわね……あなたが」

「ごめん……なさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 血の付いた杖を落とし、頭を抱えて座り込むルナ。


 アンデッドは知能が低くて生前よりも感情的だから助かるわ……。自分の手を汚さなくて済む。……もし、初めてがあるとするなら……相手はマシロくんが良い。


「ネクロマンス」

「ぐっ……うぁあ……」


 ――さてと。駒も揃ったことだし、早くマシロくんに会いに行きましょう。私としては……知能が低くて感情的なマシロくんもちょっとだけ見てみたい……かも……。


「ひひひっ! いひひひひひひッ!」





 *ステータス*


【キララ】

 種族:アンデッド 性別:女 職業:大司祭ハイプリースト

 Lv.1

 HP:20/20 MP:10/10

 腕力:5 耐久:5 知力:5 精神:5 器用:5

 スキル:クロエの命令に従う

 魔法:ヒールウインド

 耐性:火炎弱点、冷気弱点



 残りクラスメイト数:32/39人

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