第22話 死霊術師、密かに後を追いかける


 私の名前は血分ちわき黒恵くろえ。少し前まで高校生だったのだけれど、ひょんなことからクラスごと異世界に召喚されて、他の奴らのせいで大切な幼馴染のマシロくんと離れ離れになってしまったの。


 だけど大丈夫。ここはマシロくんが大好きな『エルニカクエスト』というゲームの世界だってすぐに分かったわ。マシロくんの為だけにプレイしたから、私も大体のやり方は知ってる。


 いくらクラスの奴らが妨害したって、私とマシロくんの関係は引き裂けないんだから……!


「いッ、いぎゃやああああああああああああッ!」

「ルナーーーーーーっ!」

「ふふっ、うふふふふふっ……!」


 そんなこんなで、憎き勇者パーティが魔窟の第一階層で早くも全滅したのを陰から見届けた私は、いよいよ行動を開始することにした。


「一人くらい……出来れば、二人は起き上がって欲しいのだけど……」


 スライムに食い荒らされた二人と魔法で自滅した一人の残骸が散らばる場所に立ち「ネクロマンス」と唱える。


「ぅ……ぁあ……」


 すると、詩月しづきるなだった肉片たちが反応し、ゆっくりとくっ付いき始めた。


「いたい、あついよぉ……たすけて」


 やがて、青白い顔をしたぎだらけのルナが構築され、起き上がって私の方に近づいてくる。


「はぁ……。よりにもよって……一番使えなさそうなヤツ……」


 ――彼女は私の魔法で、私に隷属するアンデッドとなったのだ。


「肉の壁くらいには……なるかしら……?」

「たす、けてぇ……」


 見ての通り、私に与えられた職業ジョブ死霊術師ネクロマンサーだ。


 死体をアンデッドとして蘇らせ、自由に使役することができる上級職である。少し扱いが難しいみたいだけれど……。


「でも……ま、マシロくんだって『観光客』で頑張ってる……! きっと、心細い思いをしているに違いないわ……!」


 ――とはいえ、強い職業ジョブを与えられた私が文句を言っている場合ではない。この能力で、絶対にマシロくんを助けてあげるの……!


「たすけてよぉ……」

「……うるさい」


 私はまとわり付いてきたルナの頬を全力で叩く。思ったよりも継ぎ目が弱いらしく、首が一回転した。


「ふえぇ……?」


 何が起きたのか分かっていないらしく、困惑と恐怖が入り混じった表情で私のことを見つめてくるルナ。


「私はね……マシロくんの言うことなら……何でも聞いてあげるわ。でもお前は駄目……」

「クロエ、ちゃん……?」

「だって、嫌いだから」


 この女――生前のルナは、最悪な人間だった。


 私のことを「気持ち悪い」だなんて言っていじめてきた星宮ほしみやきららの友達で、マシロくんのことを「生理的に無理」とか言って馬鹿にしていた嫌な奴……。


 自分がマシロくんから相手にされていないだけなのに、そんなことにも気づけないだなんて……本当に、見ていて腹が立つ。マシロくんがお前みたいなふしだらな女になびくはずがない……!


「お前はこれから、ずっと……私の命令に従うの……。それ以外の行動は……許されない……」


 それに、止めるフリをしながら私のいじめに加担していたことは分かっている。キララが私にバケツで水をかけた時も、私の教科書を燃やした時も、私の体操着を切り刻んだ時も……ずっと隣で笑って見ていたのでしょう……?


 ――本当に止めてくれたのはマシロくんだけ。


 だから今度はマシロくんが標的にされてしまったの。私のせいで。私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで。


 そしてお前とキララのせいで。


「絶対に……許さない……」

「い、いやぁ……! たっ、たすけてぇっ!」


 ルナはおぼつかない足取りのまま、私に背を向けて逃げ出そうとする。


「インシネレート」


 だから、私は即座に焼却魔法を唱えた。


「ぎゃやああああああああああああッ! あづいあづいあづいいいいッ!」


 次の瞬間、ルナの身体が激しく燃え上がる。アンデッドでも、叩かれたり燃やされたりするのは苦しいらしい。


「いぎゃやあああああああああああああああッ!」

「……………………」


 ――そして私は、ルナが完全に燃え尽きて灰になるのを確認してから再びこう唱えた。


「……ネクロマンス」


 すると灰の積もっていた地面が盛り上がり、間抜け面のルナが再び出現した。


「ふっ……ふえぇ……?」


 私はルナの髪の毛を掴み、無理やり顔を近づけさせる。


「いっ、いだッ――」

「熱いのは、嫌でしょう? 大人しく、言うことを聞いてね……?」

「あっ…………!」


 隷属させたアンデッドの全てを自由に操る、それこそが死霊術師ネクロマンサーの能力なのだ。


「ごっ、ごめんなしゃいいぃっ!」


 どうやらルナも分かってくれたらしい。


「ゆっ、ゆうこと聞きましゅうぅぅっ!」

「ふふふ……っ!」


 こうして、頭を地面にくっ付けて私にひれ伏している姿を見ていると、確かに素直でかわいい面もあるのかもしれないと思えてくる。


 別にどうでもいいけれど。


「うふふふふっ……! ……そうだぁ、良いことを思いついてしまったわ……!」

 

 ――次はキララをアンデッドにしてやろう。そうして学校のくだらない人間関係の全てを清算してから、追放されて困っているマシロくんを助けに行く。


「うふふっ、待っていてね……マシロくん……! マシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくんマシロくん」

「ひいぃぃ……!」

「……行きましょう、ルナ」

「は、はいぃぃっ!」


 その後、私はルナを従えて魔窟を後にするのだった。


 ――絶対に逃げないで待っていてね、マシロくん。もしどこかで死んじゃっても、私がアンデッドにしてあげるから。





 *ステータス*


【クロエ】

 種族:異界人 性別:女 職業:死霊術師ネクロマンサー

 Lv.3

 HP:37/37 MP:71/71

 腕力:11 耐久:11 知力:29 精神:31 器用:13

 スキル:支配、コープスガード

 魔法:ネクロマンス、インシネレート

 耐性:即死耐性



【ルナ】

 種族:アンデッド 性別:女 職業:大魔道士ハイウィザード

 Lv.1

 HP:20/20 MP:10/10

 腕力:5 耐久:5 知力:5 精神:5 器用:5

 スキル:クロエの命令に従う

 魔法:エクスプロード

 耐性:火炎弱点、冷気弱点

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る