第21話 観光客、クラスメイトを売ってしまう


「ぎゃあああああああああああッ!」


 魔力の矢と速射された矢を連続でくらい、悲鳴を上げながら派手に吹き飛ぶシュウト。


 しかし、あらかじめバリアを展開していたらしく致命傷は免れたらしい。矢が体に刺さっている様子もない。


 流石はエルクエのプレイヤー。俺には遥かに及ばないが、何も知らない奴らよりはやるようだ。


「ますたーに手を出すつもりなら……おもしろニンゲンでも許さないわよっ!」

「次に同じことをしたら急所を狙いますっ!」


 リースとベルは、地面に倒れ伏しているシュウトに向かって威嚇した。仲間ペット主人プレイヤーと敵対した相手に容赦しないのだ。


「やれやれ、俺が手を下すまでもなかったようだな。……シュウト、あまり不審な動きはしない方がいいぞ。クラスメイトが目の前で殺されるのは忍びない」


 俺は自分でそう言った後に「別に忍びなくはないな……」と思ったが、言わないでおくことにした。


「ぐぬぬぬぬぅ……!」

「さて……という訳で、もう俺に用はないな?」


 俺はボロ雑巾のように地べたを這いつくばっているシュウトを見下しながら問いかける。


「死ねぇ……!」

「……残念だが、いくら恨まれたところで貴様に渡せるものは何もない」


 まったく、この期に及んで呪詛を吐き捨てて来るとは救いようのない人間だ。俺がやれやれと肩をすくめたその時。


「見ろ! あいつだッ!」


 突如として、近くで何者かが叫んだ。声のした方へ目を向けると、そこには街を警備していたと思しき衛兵の姿があった。


「賞金首がいたぞッ!」

「逃げる前に捕まえろッ!」


 俺たちはあっという間に集まってきた衛兵に包囲されてしまう。


「賞金首ってお前……犯罪者だったのか。悪人プレイ中に街中で絡んでくるとは恐ろしい度胸だな。何を考えているんだ? 衛兵が集まってくるに決まってるだろう」

「う、うるせえええッ!」


 エルクエでは、窃盗や一般市民の殺人等の犯罪行為を重ねることで、犯罪者として指名手配されるようになる。民家に侵入してタンスを漁ったり、置いてあるツボを叩き割ったりするのも当然駄目だ。犯罪である。


 犯罪者になると指名手配され、街の衛兵や冒険者たちから付け狙われるようになってしまうが、その代わりお金を払わずに武器やアイテム等を入手(窃盗)することができるのだ。


 序盤に悪人プレイをするなんて、コイツはきっと変態なのだろう。観光客を強制的に選択させられた俺といい勝負だ。


「――異界人のシュウト! 貴様を窃盗の罪で拘束する!」

「まさか冒険者ギルドの前に来ていただなんて……大胆な奴だ! 自首でもするつもりだったのか?!」

「おっ、オレだって……なりたくてこうなったワケじゃねぇんだよおおおおッ! クソがああああッ!」


 なるほど。どうやら単純に立ち回りが下手過ぎて犯罪者になってしまっただけらしい。やはりただの間抜けだったな。


「ご協力、感謝します!」


 賞金首の逮捕に成功した衛兵たちは、俺に向かって敬礼してくる。


「報酬はギルドの方で受け取ってください!」

「今から賞金首確保の申請を行いますので、私に付いてくると良いでしょう!」


 どうやら、衛兵のうち一人が案内をしてくれるようだ。


「……親切にどうも」

「覚えてろよマシロおおおおおおおッ! 絶対に復讐してやるからなああああッ!」


 やれやれ、後ろがやかましいな……。俺はもう一度背後へ振り返る。


「……仕方がないから覚えておいてやろう。罪を償って真っ当に生きるんだぞ、タカシ」


 かくして俺は、犯罪者となってしまった元クラスメイトのタカシに別れの言葉を告げるのだった。


「だからオレの名前は――」

「それ以上喋るんじゃないッ! 大人しくするんだッ!」

「むぐっ! ふ、ふざけッ、ぐううううッ! うがあああああッ!」


 かくしてタカシは手足を拘束され、ついでに口も塞がれた状態でどこかへと連行されていくのだった。


「我々はこのままギルドへ向かいましょう」


 そう言って、一足先に武骨な建物の中へ入って行く衛兵の人。


「……さてと、それでは俺たちも付いていくとするか。二人ともお手柄だったな」

「えへぇ……!」

「ふふふふ……っ!」


 俺は褒めて欲しそうにしていたベルとリースの頭を存分になでてから、衛兵の後に続くのだった。


 *


 その後、俺はギルドで10000¥$の賞金を受け取った。


 本来であれば、新人向けの簡単な依頼をこなして実力を示さなければ冒険者として正式に登録することは出来ないのだが、今回はそれも特例で免除されることになった。


 どうやら、タカシが犠牲になってくれたおかげで思っていたよりも簡単に事が運んでしまったようだ。ありがとうタカシ。今なら10¥$くらいは払ってやっても良い気分だ。

 

 ――もちろん嘘だが。





 *ステータス*


【シュウト】

 種族:異界人 性別:男 職業:魔法戦士マジックファイター

 懸賞金:10,000\$

 Lv.3

 HP:89/89 MP:63/63

 腕力:24 耐久:13 知力:24 精神:10 器用:10

 スキル:ウォークライ、窃盗

 魔法:バリア、ファイアーボール、アイシクルランス

 耐性:なし

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