第20話 観光客、クラスメイトと遭遇する


「何だその態度はよぉ……? マシロの分際で慣れ慣れしいんだよッ!」


 やれやれ、俺のクラスメイトは基本的にこういう奴ばかりだな。まったく、もう少し理性的に振る舞ってほしいものだ。正気の沙汰とは思えない。


「あははっ! ますたー、どうしてあのニンゲンは顔を真っ赤にして叫んでいるのかしら? 面白いわ!」

「ご主人様を馬鹿にするなんて……すごく失礼な人ですっ! 最低ですっ! 大嫌いですっ! 謝ってくださいっ!」


 発狂する俺のクラスメイトを見て、何故か面白がるリースと怒るベル。やれやれ困ったものだ。


「おいッ! そこの奴隷女どもッ! オレが主人になってやるから、今すぐそこのゴミを裏切れッ!」


 するとその時、そいつは更にすごいことを言い始めた。


「すごい……っ! どうしてそんなに馬鹿なことが言えるの?! 頭が悪い個体なのかしらっ?! あたし、こんな変なニンゲン初めてみたっ!」


 リースは何故か興奮しながら俺の制服を引っ張ってくる。珍獣を間近で目撃した時のような喜び具合だ。


「ひぃっ?! きっ……気持ち悪すぎます……っ! やっぱり……今すぐ消えてくださいっ!」


 一方、ベルはドン引きして俺の後ろに隠れる。クラスメイトに対するその視線は、不快な害虫に対して向けられるものとほぼ同じだった。


「…………そうか!」


 そこで俺は、ようやく目の前のクラスメイトが誰であるのかを思い出した。


「その支離滅裂な言動、知能の低さ、そして裏切るという発想……お前、タカシだな」

「違ぇよッ! シュウトだ馬鹿野郎ッ!」


 違った。当たらずとも遠からずといった感じか。


「…………あー」

「おしかったみたいな顔してんじゃねぇよボケッ! 全然違うだろッ! マジでクソムカつくんだよてめえええええぇッ!」


 ――彼の名前は信道しんどう終斗しゅうと。嘘と裏切りを得意としていて、感情の起伏が激しい繊細なクラスメイトだ。そして同じクラスに双子の弟がいる。


 確か最初は席が隣で、よく「オレって感情とかないからw」とか「あーあ、アツトみたいな勘違い野郎が一番ムカつくんだよなー。まあ、いつでもボコせるけどw」や「ルナっているじゃん。あれ実はオレの女w」などと、物凄くどうでも良い話題で頻繁に話しかけてきたので、仕方なく適当に返事をしてやっていたことを覚えている。


 嘘だと指摘すると怒るからな。


 ……だがある時、何故か唐突に悪口を言っていたアツト達ヘゴマをするようになった。そして、お情けで向こうのグループに入れてもらった瞬間「マシロがお前の悪口を言って馬鹿にしてたんだっ! ゴミのくせに許せねえよな!」というありもしない嘘を流し始めたのである。


 本当に、いまいち行動が理解できない人間だ。


 真に受けて流される有象無象どももそれなりに愚かだが、一番の愚者はこいつであると言えるだろう。……しかし、どうにも影が薄いので今の今まで存在自体を忘却していた。


 基本的に嘘ばかりで信用のおけない奴なので、うっすらとアツト達からも避けられていた記憶がある。とにかく、出会ってしまった場合の対処法はなるべく関わらないようにすることだ。


「そうか、シュウトだったか。こっちの世界でも元気そうでなによりだ。じゃあな。――ベル、リース、行くぞ」


 気を取り直し、二人を連れてギルドの中へ入ろうとしたその時。


「待ちやがれええええええッ!」


 シュウトが絶叫しながら呼び止めてきた。


「まったく……今度はどうした? まだ俺に何か用があるのか?」

「金……出せよ」

「…………?」

「こっちはもう……ずっと何も食えてねぇんだよッ! ――ここが『エルクエ』の世界だってことは分かってた! オレだけが知ってた! だからッ! 俺が一番有利に立ち回れるはずだったんだッ! それなのに……ッ! 全部貴様が先回りしやがってえええええええッ!」

「……興味深い。詳しく話せ」


 俺の外にエルクエを知っている奴がクラスメイトに居たことに関しては、特に疑問などない。


 ――しかし、こいつは俺が先回りしたと言ったな。どういう意味だ?


「モルドに……行ったんだ。そしたら……どいつもこいつも『マシロ様! マシロ様!』っておかしくなってやがった! ……で、そいつらから『英雄』とやらの話を聞かせてもらったよ。オレがいくら馬小屋を探しても出てこなかった『獣人の仲間ペット』を連れた……クソ野郎の話をなッ!」

「…………ふむ」

「てめぇも知ってやがったなッ! だから追放される時あんなに余裕そうだったんだッ! クソがッ! オレがこなすはずだったイベントを返せえええええええッ!」


 なるほど。序盤の仲間もレベル上げ用のクエストも俺が先にやってしまったから怒っているのか。


「その二つが無理だったとしても、他にやりようはいくらでもあっただろ。お前……ゲームも下手だったんだな」

「うるせええええええええええッ!」


 しかし、イベントが早い者勝ちであるというのは盲点だったな。良いことを聞かせてもらった。これからは、重要なイベントが起きる場所を優先的に観光した方が良さそうだ。


「お前が持ってるものは、全部オレが手に入れるはずだったものだッ! 今すぐよこせええええええええッ!」


 ――俺が納得していると、突如としておかしくなったシュウトが飛び掛かってくる。


「マジックアローっ!」

「クイックショット!」


 同時に、リースとベルが俺を守る為に攻撃を放ったのだった。

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