俺の職業は『観光客』だが魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる〜やり込んだゲームの世界にクラスごと転移したが、目覚めたジョブが最弱職だったので追放された件〜

第19話 観光客、万全な準備を整える

　広場を後にした俺たちは、そのまま武器屋に訪れていた。

　水の都クレインでやることと言えば、下水道ダンジョンの攻略である。しかし、ダンジョン内にはスライムやジャイアントラット等の凶悪なモンスターが徘徊しているため、相応の準備を整えておく必要があるのだ。

「いらっしゃい！　良いモン揃ってるよ！」

　何故か上半身に衣服を身にまとっていない筋骨隆々の大男が挨拶をしてくる。武器屋の店主なのに「オレの肉体こそが武器だ！」などと言い出しそうな風貌である。

「では、これとこれを買おう」

「まいどあり！」

　まずはそこで「オークの弓」と「魔除けの杖」を購入し、それぞれをベルとリースに手渡す。

　オークの弓には筋力を底上げする効果があり、魔除けの杖は装備している間のみバリアの魔法を使用できるようになる。

　これらを装備させておけば、ダンジョンにおける俺の生存率が高まるだろう。

「他にも何か買っていくのかい？」

「いいや。さらばだ」

「また来てくれよな！」

　そんなこんなで武器屋を後にする。ちなみに出費は３１００￥＄だった。

　その次は、向かいにある魔道具屋を訪れる。

「い、いらっしゃいませぇ……いひひひひっ……！」

　魔道具屋の店主は、魔女みたいな恰好をした陰気な――というより狂気を感じる女だ。何を考えているのか分からないので、正直言って恐ろしい。手短に済ませよう。

「治癒のポーション五つと耐酸ポーション三つ、それから浄化の巻物を十巻だ」

「お客さぁん……お目が高いですねぇ……けひゃっ……！」

「……どうも」

　非情にやりづらい。

「他にも何か……買っていきますかぁ……？」

「買いません」

「また……来てくださいねえぇぇぇぇ……！」

　――魔道具屋での出費は３９００￥＄である。準備をしているだけでどんどんと所持金が減っていくな。

「さてと、それでは冒険者ギルドへ向かうとするか。……もしお腹が空いているのであれば、トリートを使用してこの場で昼食にするが……どうする？」

　店を出て一息ついた俺は、後ろをぴったりとくっついて来ていたベルとリースに問いかける。

「あたしは別にお腹空いてないわ！」

「私も平気です！　それより――」

　一呼吸おいて、ベルは目をキラキラと輝かせながらこう続けた。

「移動するということは……またあれに乗りますか？　また乗るんですよねっ？！」

　どうやら、余程ゴンドラに乗るのが気に入ったらしい。

「……ああ、そうだな」

「わぁ……っ！」

　俺の返事を聞き、尻尾を振って喜ぶベル。

「まったく……やれやれって感じね、ますたー」

　リースはそう言って肩をすくめてみせた。俺の真似をするんじゃない。

　――ちなみに、ゴンドラは一度乗る度に９０￥＄かかる。人数によって値段が変動することはない。つまり一パーティにつき９０￥＄ということだな。

　本当は歩いた方が早いのだが……あえて遠回りをするというのも観光の醍醐味（だいごみ）であると言えるだろう。たぶん。

　＊

　そんなこんなで、少しだけ遠回りして冒険者ギルドへやって来た。外観は石造りの武骨な建物といった感じである。

　辺境の町モルドとは違い、水の都では「メインクエスト」を含む依頼の大半をギルドで受注することができる。

「ま、ますたー……」

「危険な匂いがします……っ！」

　冒険者ギルドの放つ異様な雰囲気に圧倒され、俺の後ろに隠れて怯える二人。

　だがしかし「新米に絡んでくるごろつき冒険者」といった存在は原作に登場しない。従って、冒険者ギルドで喧嘩になるようなことはまずないはずなので、心配する必要はないだろう。

「安心しろ二人とも。冒険者の皆さんは気さくな良い人たちだ。……おそらくな」

　どうにか二人を宥めつつ、ギルドの中へ足を踏み入れようとしたその時。

「おい……お前ぇ……」

　突然、背後から声をかけられる。

「…………うん？」

　振り返るとそこには、かつてのクラスメイトが立っていた。

「久しぶりに会ったなぁ……マシロぉ……」

「お前は……！」

　ええと……誰だったかな。同じ制服を着ていて、おまけに俺の名前を知っていたので、間違いなくクラスメイトのはずなんだが……思い出せない。

「随分と楽しそうじゃねぇかよぉ……」

　にやにやと薄気味悪い笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらへにじり寄ってくるクラスメイト。何故か全身ボロボロなので、今まで散々な目に遭ってきた来たことがうかがえる。

「……ええと、久しぶりだな。元気にしていたか？」

　――とりあえず、適当に知っているふりをして思い出す時間を稼ぐとしよう。

　＊ステータス＊

【マシロ】

　種族：異界人　性別：男　職業：観光客

　Lv.16

　HP：108/108　MP：66/66

　腕力：23　耐久：19　知力：18　精神：20　器用：23

　スキル：鑑定、値切り、旅の経験、収納

　魔法：クリーン、トリート、トーチ、ステイ

　耐性：なし

　所持金：２９２０￥＄

　持ち物：火打ちの魔石×1、松明×3、治癒のポーション×5、耐酸ポーション×3、浄化の巻物×10