第10話 観光客、魔物少女を救ってしまう


「ガハァッ! ……こっ、このオデが……負けル……?」

「そんなに強くなかったぞ貴様。想定以下だ」

「…………! フ、ふザけ……ぐっ、ガアアアアアアアアアアアアッ!」

「雑魚め」


 無事にオーガを討伐したことで、俺のレベルは15に上がった。


 予想外の戦闘だったが、レベルアップによって新しい魔法を習得することができたので良しとしよう。


 ……しかし、問題なのは助けてやった魔物少女の方だ。


「ひっぐ……うえええんっ! ニンゲンなのに……助けてくれてありがとおおっ!」


 こいつ、先程から一向に泣き止む気配がないぞ。


「お名前、なんて言うの?」


 俺が困惑していたその時、ベルが優しく問いかけた。


 確かにまずは名前を聞くべきだったな。でかしたぞベル。


「リース……っ」

「私はベルだよ。えっと……よろしくね!」

「ぐすっ……よろしくぅ……っ」


 そうしてベルと話しているうちに、リースは段々と落ち着きを取り戻していく。


「何があったの?」

「逃げ出してきた……。追われてたの。話すと、長くなるわ……っ」

「……聞かせて」


 それからリースは、現在に至るまでの経緯を事細かに話してくれた。


「えっとね……まずはあたしが生まれた時の話をするわね。あれは今から――」


 こいつ、思ったよりさかのぼってきたぞ。


 おそらく、今まで碌な話し相手が居なかったから沢山お喋りしたいのだろう。かわいそうに。


「――そんな風に、他の魔物とはどこか違っていたの。それでね、失敗ばかりで……」

「……………………ぐぅ」

「ベル……?」

「……ふぇ? あっ、ね、寝てないよっ! 大丈夫!」


 予想以上にリースの身の上話が長かったので、俺がある程度要約する。


 ――古城に住まう魔物達は、全て『ノクトゥート』の魔力によって生み出された存在だ。そのため、絶対的な主人である奴の命令には必ず従わなければならない。


 何か疑問を持ったり、反抗したりするようであれば罰を与えられ、場合によっては処分されてしまうそうだ。


 そんな環境の中において、リースは生まれつきの「出来損ない」だった。


 彼女のような低級悪魔に与えられている役割は、少女の姿で人間を油断させ、その隙に殺すというものである。しかし、リースにはそれができなかったのだ。


「だって……あたしと同じように話せる相手を殺すなんて……かわいそうじゃない……。そう思うのが普通でしょ……?」


 リースは命令に背くたびに厳しい罰を与えられた。


 助けようとした人間から殺されかけたことすらあったが、それでも考えを改めることはなかったそうだ。


「ニンゲンからも魔物からも嫌われてるあたしの居場所なんて……どこにもない……。分かってるけど……あの場所に居るのだけは……耐えられなかったの……っ」


 だからこそ、リースは古城から逃げ出した。


 追手に捕まれば、見せしめとして拷問をされた上で処刑されることは理解していたが、そうせずにはいられなかったのだ。


「あなた達が助けてくれなかったら……あたしは今ごろ……ぐすっ、うえええええんっ!」


 辛い過去を思い出させてしまったせいか、リースはまた泣き出した。


「ひっぐ……リースもっ、大変だったんだねぇっ、うわあああああん!」


 ……おいおい、ベルまで一緒に泣き始めたぞ。


「やれやれ……」


 ――だが、今は気の済むまで泣いた方が良いのかもしれないな。


「ベルぅっ、うええええええんっ!」

「もう……大丈夫だからねリースぅっ! うわあああんっ!」


 二人はぎゅっと抱き合った。一件落着、といったところである。


「ご主人様ぁっ……!」


 すると今度は、ベルが目をうるうるさせながら、何か言いたげな表情でこちらを見つめてくる。


「ああ、そうだな。――リース。行くあてがないのなら、俺たちと一緒に来るといい」

「ぐすっ……で、でも……! あたしは魔物だから……一緒に居たら、きっと迷惑かけちゃうわ……っ」

「……余計な心配はするな。つべこべ言わず一緒に来い」


 俺はそう言ってリースの頭をなでてやった。


「ひっぐ、ありがどおおおおおおっ!」


 すると、リースは大粒の涙を流しながら俺に抱きついてくる。


「ふっ……やれやれだ」


 かくして、「心優しき魔物」のリースが仲魔ペットになったのだった。


 ……とはいえ、オーガを倒す時は割と躊躇なく攻撃していた気がするので、「人間好きの魔物」と称した方が正しいかもしれないがな。


 *


 ――リースの話が長かったので、野外であるというのにすっかり日が暮れてしまった。


「ご主人様、今日はどこで野宿しますか?」

「ここら辺は、その……魔物が多いから……交代で見張りをした方がいいと思うわ」

「心配するな。おそらく見張りは必要はない」


 俺の返事に対し、ベルとリースは二人揃って困惑した表情をする。


「観光客の新たなる力を見せてやろう」


 そう言って、俺は新しく習得した魔法を唱えるのだった。


「ステイ」





 *ステータス*


【マシロ】

 種族:異界人 性別:男 職業:観光客

 Lv.15

 HP:96/96 MP:57/57

 腕力:21 耐久:17 知力:16 精神:18 器用:20

 スキル:鑑定、値切り、旅の経験、収納

 魔法:クリーン、トリート、トーチ、ステイ

 耐性:なし


 所持金:6100¥$



【ベル】

 種族:獣人 性別:女 職業:なし

 Lv.12

 HP:120/120 MP:33/33 

 腕力:25 耐久:22 知力:14 精神:13 器用:18

 スキル:アイテム拾い、突進、罠探知

 魔法:ブースト

 耐性:なし



【リース】

 種族:魔族 性別:女 職業:なし

 Lv.12

 HP:69/69 MP:126/126

 腕力:15 耐久:13 知力:28 精神:19 器用:14

 スキル:アイテム拾い

 魔法:マジックアロー、スリープ、ポイズン

 耐性:なし

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