第8話 勇者、生き返って絶望する


「うわあああああああああああああッ!?」


 絶叫しながら飛び起きると、そこは『召喚の間』と呼ばれる薄暗い地下空間だった。僕達のクラスは、初めこの場所に召喚されたのだ。


 だけど、僕は思い出したくも無いくらいグシャグシャになって死んだはずなのに……どうして生きているんだ? それに皆は?


 訳が分からずその場に座り込んでいると、広間の奥から声が聞こえてきた。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない!」

「………………!」


 決まり文句のようなことを言いながら僕に近づいて来たのは、この国の王様だ。


「み、みんなはッ!? みんなはどうなったんだッ!」


 僕は王に詰め寄り問いかけた。


「お主に同行した者達のことを聞いているのであれば……」


 一息おいて、王はやや俯きながら続ける。


「死んでしまったよ」


 その言葉を聞いた瞬間、全身の力が抜けていくのを感じた。


「う、うあああああああああああッ!」


 僕はその場にうずくまって慟哭する。


「タカシ……マサル……ルナぁ……っ! うそだああああああああああああああああああッ!」


 みんな大切でかけがえのない仲間だった。僕の目からこぼれ落ちた大粒の涙たちが石畳を濡らす。


「なんでっ……なんでましろクンみたいな役立たずの害虫じゃなくて……っ、優しい心を持つみんなが死ななければならないんだ……っ! うわああああああっ!」


 むごい。あまりにもむごすぎる。


「残念じゃったのう……」

「…………ッ!」


 僕は絶望すると同時に、王に対する怒りが湧き上がってきた。


「全部っ……全っ部お前のせいだああああッ! 元はといえばお前がこんな場所に呼び出すから……っ! みんな死んでしまったんだああああああッ! お前は王なんだろ!? だったら責任を取れええええええええッ!」


 僕は王を怒鳴りつける。何故か護衛を付けていないので、このまま殺してしまおうかと思ったくらいだ


「お主の言うことはもっともじゃが……まあ、そう焦るでない」


 すると、王は悪びれる様子もなく言った。


 まるでましろクンみたいなその態度が、僕の神経を更に逆撫でする。


「ふ、ふざけるなあああっ! こっちは大切なクラスメイトが死んでるんだぞッ! くっそおおおおおおッ!」

「……だから大丈夫じゃって。消滅したのはあくまで『こちらの世界で用意された肉体』だけじゃからのう」

「…………え?」


 僕は初め、王の言葉の意味が分からなかった。


「つまり……魔王さえ倒せば、ワシの力で全員の魂を元の世界に送り返すことができる……ということじゃよ。……ワシは今、奴の呪いで力を制限されておるからのう」

「………………!」

「お主達の元居た世界で、全て元通りじゃ」


 だけど、次第に何を言っているのか理解し始める。


「要するに、全ては『女神の加護』によって何度でも復活できるお主にかかっている……ということじゃな。勇者アツトよ」

「………………! ど、どうしてそんな大切なことをもっと早く言わなかったんだ……!」

「説明する前に城を飛び出してダンジョンへ突撃してしまったからのう……まったく、若者はせっかちじゃわい」


 王の話を聞き、全てに合点がいった。


 皆と死んでしまったはずの僕が生きている理由も、クラスメイトに皆を助ける方法も。


「……つまり……僕が魔王さえ倒せば……ルナも、マサルもタカシも……!」

「元の世界で再会できるじゃろうな」


 絶望のドン底だった僕の前に、一筋の光が差した気がした。


 それなら、残ったクラスの皆で力を合わせればきっと……!


「――しかし、お主達がダンジョンへ出発して全滅した後、残された者達の殆どは仲間割れを起こして別々に城を出て行ってしまったがのう……。流石に、一度壊れてしまった関係はワシの力をもってしても修復不可能じゃよ……」

「は…………?」


 僕のクラスが……仲間割れ……? あり得ないだろそんなこと。コイツは何を言ってるんだ……? だって、ましろクン以外はみんな固い絆で結ばれていたじゃないか……!


 ――まさか、ましろクン追放して共通の敵を失ったせいで、一致団結していたクラスに亀裂が入ってしまったのか……?


「………………っ!」


 そこで初めて、僕は自分の過ちに気付いた。


 ましろクンのようなゴミカスでも――いや、ゴミカスだからこその存在価値があったんだ……! クラスで団結して魔王を倒す為にも、追放するべきではなかった……!


「う、うわあああああっ!」


 頼れる仲間達と便利なサンドバッグの両方を失ったことに気付いた僕は、再び絶望のドン底へ叩き落とされるのだった。


「戻って来てくれ……ましろクン……ッ!」





 *ステータス*


【ルナ】死因:魔法で自滅

 種族:異界人 性別:女 職業:大魔道士ハイウィザード

 Lv.1

 HP:0/32 MP:23/83

 腕力:5 耐久:6 知力:24 精神:18 器用:13

 スキル:消費MPカット、魔法ダメージ増加

 魔法:バリア、ファイアーボール、アイシクルランス、ライトニングボルト、ウインドカッター、エクスプロード

 耐性:火炎耐性、冷気耐性、電撃耐性



【マサル】死因:スライムの強酸攻撃

 種族:異界人 性別:男 職業:拳聖ナックルマスター

 Lv.1

 HP:0/46 MP:9/9

 腕力:28 耐久:10 知力:8 精神:13 器用:11

 スキル:ウォークライ、正拳突き、連撃、クロスカウンター

 魔法:ヒール、ブースト

 耐性:なし



【タカシ】死因:スライムに対する侮り

 種族:異界人 性別:男 職業:剣聖ソードマスター

 Lv.1

 HP:0/27 MP:16/16

 腕力:32 耐久:3 知力:10 精神:17 器用:15

 スキル:勝鬨、捨て身の構え、一刀両断、乱れ斬り、風斬り

 魔法:なし

 耐性:暗黒耐性



 残りクラスメイト数:36/39人

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る