第7話 勇者パーティ、ド派手に全滅する


 僕の名前は佐院さいん篤人あつと。少し前まで高校生だったんだけど、異世界に召喚されて魔王を倒す勇者になってしまったんだ!


 王様の話によれば、こちらの世界に召喚された人間は職業ジョブという強力な特殊能力に目覚めるので、魔物相手でもそうそう死ぬことはないらしい。


 ――そういうことなのであれば、僕達にはこの王国の人々を救う責務があると思う。


 だって、僕らはクラスのスローガンとして「一人一人がヒーローになろう! ただしマシロは死ね!」を掲げているからね! 困っている人を助ける。それは僕達にとって当たり前のことなんだ!


 という訳で、僕達は異世界の王国の兵士に案内され、最下層に魔王が君臨しているという『魔窟』の入り口にやって来ていた。


 魔窟があるのは、王都から少し離れた場所にある森の中だ。外から見た感じは普通の洞窟なんだけど、この中には恐ろしい魔物達が数多く眠っているらしい。


 だから魔物が外へ出てくることがないよう、今も兵士の人達が交代で見張りをしている。


「アツト君……っ」


 不安そうな顔で僕の名前を呼んできたのは、パーティメンバーの一人であるルナRUNA


 おっとりしていて、おっちょこちょいな所があるけど、とても芯の通った長い黒髪の女の子だ。「キモいけど囮として使えるから」という理由でましろクンの追放を反対していた、とても心優しい子でもある。


 でも……ちょっとだけ無防備で、天然じゃあ済まされない感じの時があるのだけは玉に瑕かな。たはは……。


「心配する必要はないさ、ルナ。危険だったら引き返してくればいい。僕らはそれができるパーティーだろう?」

「そ、そうだよねっ。だって私は……大魔道士ハイウィザードだから! すごく強い魔法使いってことだもんね……!」


 どうやら、ルナはやる気を出してくれたらしい。


「ってか、めちゃくちゃ大掛かりなセットじゃんwwwこれいくらかかってんのw? うぇーいwwww」


 そう言ったのは、剣聖ソードマスタータカシTAKASHI。彼は未だに現状を正しく認識できていない様子だけど……いざという時にはやる男だ。いつも馬鹿みたいなことを言い出すましろクンを率先して論破してくれていたし、きっとパーティーにも貢献してくれるだろう。


「さっさと行こうぜアツト。こんな所でモタモタしてても仕方がねェしな。要するに魔王ってやつをぶっ殺しゃあ良いんだろ?」


 彼は拳聖ナックルマスターマサルMASARU。乱暴者に見えるけど、ましろクン以外には決して暴力を振るわない心優しい熱血漢なんだ。


「――そうだね。早速ダンジョンを探索しようか」


 かくして、僕達はこの四人パーティーで魔窟の偵察を始めるのだった。――ひょっとしたら、今回の冒険で魔王を簡単に倒しちゃうかもしれないけど! 


 僕は半分ゲーム感覚でそんなことを考えていた。


 だって、これが何かの物語だとするなら僕は主人公だからね! 僕は何があっても絶対に死なないと確信している。


 さっき追放したましろクンのような、生まれて来たこと自体が間違いのゴミクズとは違うんだ! 


 ……本当、人間の能力差というのは実に残酷だと思うよ。僕みたいに全てを持っている完全無欠の天才が居たかと思えば、ましろクンみたいな知能も身体能力もコミュニケーション能力も凡人以下などうしようもないカス個体も居るんだから。


 きっと、僕が全宇宙の主人公だから異世界召喚だなんて不思議な事件に巻き込まれてしまうんだろうなあ。


 まったく、悩ましい限りだよ。

 

 *


「カメラ……ど……こ……?」

「いやあああああああッ!」

「タ、タカシーーーーーーーーッ!」


 ――魔窟の探索を始めてすぐ、タカシが死んだ。


 襲ってきた粘液みたいな魔物を見て「スライムwww雑魚じゃん殺そwww」と言いながら近づいて行ったのが運の尽きだった。


 スライムは一瞬にしてタカシの身体にまとわりつき、全身を溶かしてしまったのである。


「う、うわああああああああッ!」


 僕は少しだけ溶け残った無惨なタカシの残骸を見て叫んだ。


「くっ、クソッ! テメェふざけんじゃ――ぐあああああああッ!」

「マサルーーーーーーーーーーっ!」


 その後、仲間の死に激怒してスライムに飛び掛かったマサルは、タカシと同じ末路を辿った。


 合計二つの残骸が地面に転がる。


 ――しかし、それで終わりではない。


「いやああああッ! バ、バリアっ! ファイアーボールっ! ウインドカッターッ! エクスプロードッ!」


 あまりにもショッキングな光景を見て半狂乱になったルナが、覚えている魔法をデタラメに唱え始めた。


「ふええ……?」


 最初にルナを護る魔法のバリアが展開され、その後に唱えた攻撃魔法が順番に発動していく。


「いッ、いぎゃやああああああああああああッ!」

「ルナーーーーーーっ!」


 ルナはバリアの中で逃げ出すことも出来ず、自分が唱えたファイアーボールに焼かれ、ウインドカッターに切り刻まれ、爆散してしまったのだ。


 ルナが死んだことでバリアが解除され、真っ赤な血が周囲に飛び散る。


「うわああああああああああああああッ!」


 僕はその場で膝をついて慟哭した。


 優しかったルナは、その優しさゆえに、魔物を傷つけることすら出来ず死んだのだ。


「こんなの……あんまりじゃないかぁッ!」


 ――そこへすかさずスライムが飛び掛かってきた。


「ライトニングボルトおおおおおおおッ!」


 僕は咄嗟の判断で魔法を唱え、大切なクラスメイトを亡き者とした憎きスライムを消し炭にする。

 

「ハァ、ハァ……くそぉっ! どうして……こんなことにぃッ!」


 残ったのは、スライムが落とした宝箱と、四方に散らばるクラスメイトだったモノの残骸だけだ。


「ましろクンが……ましろクンが代わりに死んでいれば……こんなことにはならなかったのにッ!」 


 出て行っても迷惑をかけてくるだなんて……あまりにも酷すぎる! なんて奴だっ!


「と、とにかく……みんなの尊い犠牲は無駄にできない……ッ!」


 僕はどうにか気持ちを落ち着かせ、みんなが遺したといっても過言ではない宝箱を開けることにする。


「ましろぉ……絶対に許さないぞッ!」


 そう言いながら宝箱に触れた瞬間、何故かカチッという音が鳴った。


「……うん?」


 ――次の瞬間、僕は洞窟の壁にワープさせられ、叫ぶ暇すらなく全身がグシャグシャになって死んだのである。





 *ステータス*


【アツト】

 種族:異界人 性別:男 職業:勇者

 Lv.1

 HP:0/77 MP:28/28

 腕力:22 耐久:15 知力:16 精神:13 器用:18

 スキル:聖剣の加護、呪い避け、魔物特攻

 魔法:ライトニングボルト、ホーリーランス、リザレクション

 耐性:電撃耐性、暗黒耐性


 死亡回数:1回

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