第6話 観光客、町の英雄になってしまう


 無事にゴブリンの盗賊団を爆殺して仕事を終えた俺たちは、そそくさと森から撤収した。


 崩落したアジトを捜索したところで、大したアイテムは落ちていないだろうからな。何度も言うが、このクエストに旨味は少ないのだ。


「すごくかっこよかったです! ご主人様ぁ……!」


 町へ帰る道中、ベルは俺の腕にしがみつきながらキラキラと輝いた目で言ってくる。


 やれやれ、大したことはしていないんだがな。


「ベルが奴らの居場所を探り当ててくれたおかげだ。ご褒美に沢山なでてやろう」

「えへへぇ……!」


 ブンブンと尻尾を振って喜ぶベル。


 ……と、そんなこんなで俺達は悠々と町へ帰還した。


「……うん? 何やら騒がしいな」


 町の中へ足を踏み入れてすぐ、町の様子が先ほどまでと違っていることに気付く。


 何やら、おっさんの雑貨屋の前に人だかりが出来ている様子だ。


「一体何事だ……?」

「うぅ……人がいっぱい居て怖いです……」


 俺とベルは不審に思いながらも、報酬を受け取る為に店へ近づいていく。


「……要するにだ。さっき鳴ったデカい音こそ、この町に来てる異界人が『勇者』の力を使って盗賊団どもを退治しちまった証拠って訳さ。アイツはたった一晩で墓地のアンデッドを討伐しちまった男だからな、実力は俺が保証するぜ!」


 すると、おっさんが店の前で野次馬たちに向かって謎の演説をしていた。


「おい、何してるんだおっさん。盗賊団は俺が爆殺したぞ。報酬をよこせ」


 俺は人だかりの一番後ろからおっさんに向かって言いう。久々に大きな声を出した気がするぞ。


「じゃあ、今の話は本当だったのか!」

「あの厄介な盗賊団をそんなにあっさり……!」

「なんて素敵なお方なの……!」


 おっさんに呼びかけた瞬間、何故か野次馬どもの注目が俺の方に集まってしまった。


「おお、帰って来たか! さあみんな、道を開けてやってくれ!」


 おっさんが言うと皆が退いてくれたので、ベルを連れて通り抜ける。


「おい、おっさん。原作にない展開を勝手に繰り広げるな。早く報酬をよこせ」


 そして、雑貨屋の前に立っていたおっさんに向かって文句を言った。


「ああ、報酬は後でやるよ。……ところであんた、名前は?」


 しかしまるで話が通じない。どうなっているんだ。


観音崎かんのんざき真城ましろだが……それがどうかしたのか?」

「分かった……マシロだな!」


 おっさんはそう言ったきり、再び野次馬の方へ向き直る。

 

「この異界人はマシロって名前なんだ! さっき説明した通り、二つの脅威からこの町を救った英雄で……俺のダチだぜ!」


 そして、俺の肩に腕を回しながら訳の分からない解説を始める。すると、野次馬どもから歓声が上がった。


「今まで悪かったよ。これからもよろしくなマシロ!」

「おっさん……」


 ――調子よすぎだろ。プライドはないのか?


「うぅ……ご主人様のすごさが認められて嬉しいです……っ!」


 豹変したおっさんを見て喜ぶベル。認められたというよりは都合よく利用されているんだが……。


「……おい説明しろ。これは一体どういうつもりなんだ」


 俺はおっさんに問いかけた。


「へっ、どうもこうもねぇよ。町の英雄が賞賛されるのは当然のことだろ?」

「………………?」


 気味の悪い奴だ。何を考えているのかさっぱり分からない。


「あれが英雄か……やっぱりオーラが違うぜ!」

「あぁ……マシロ様……なんて凛々しいお姿をしているの!」

「隣の獣人の子もすごく可愛らしいわ……絶世の美少女ね!」

「うおおおおおお! マシロ! マシロ! マシロ!」


 やれやれ、こんなに注目を浴びてしまうとは。


「オイラ、大人になったらアンタみたいな英雄になるよ!」

「この町はあなたのおかげで救われました! いずれ広場にマシロ様の銅像を建てようと思っています!」


 俺はあまり目立ちたくないんだがな……。


「どうかお願いします! マシロ様のお力で、この国を蝕む魔王を討伐してください!」

「あなたの勝利を祈っています」


 おいおい、どうして俺が魔王を倒すことになっているんだ。


「……あんた、この国の王が呼び出したっていう異界人の『勇者』なんだろ? 気づくのが遅くなっちまったぜ」


 あまりにも意味不明な状況に立ち尽くしていると、おっさんがそんなことを言ってきた。


「…………」

「間違いねえ。あんたなら魔王だって倒せる。……というわけで今後もよろしく頼むぜ、勇者さんよぉ」


 俺の肩をぽん、と叩くおっさん。全部コイツの仕業か。


「きゃーーーっ! マシロ様こっち向いてーーーーっ!」

「あぁ、マシロ様が眩しすぎてめまいが……!」

「私……マシロ様にだったら何をされても構いません……!」

「マシロ様に私の全てを捧げたいです……!」


 まったく、やれやれだ。


 ――だが悪くない。興が乗った


「いいや、俺は勇者などという存在ではないな」

「……なんだって?」


 おっさんの言葉を否定し、野次馬どもの方へ向き直る。


「俺の職業は『観光客』だが――」


 俺は一歩だけ前へ踏み出し、こう続けた。


「魔王くらいなら余裕で討伐できると思ってる」





 *ステータス*


【おっさん】

 種族:エルニカ人 性別:男 職業:雑貨屋

 Lv.30

 HP:100/100 MP:20/20

 腕力:25 耐久:30 知力:20 精神:25 器用:30

 スキル:説得、言いくるめ、ぼったくり

 魔法:なし

 耐性:なし



(※相手が売り物を盗んでいた時↓)


 Lv.50

 HP:600/600 MP:50/50

 腕力:100 耐久:75 知力:5 精神:45 器用:30

 スキル:組み付き、ぶん殴り、回し蹴り、投擲、全力疾走

 魔法:怒りのエネルギー

 耐性:火炎耐性、毒耐性

 装備:モーニングスター

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