第4話 観光客、アンデッドを焼き払う
翌朝。
「ご主人様のからだ……すごく暖かかったです……」
「ベルも暖かかったぞ」
「ご、ご主人様ぁ……っ」
一日と少しの旅を終えて、俺達は辺境の町『モルド』へとやって来た。町にはあまり活気がない。
「しかし、無一文では買い物もできないな」
原作だとゲーム開始時点で幾らかお金を持っているので、そこから必要なアイテム等を購入して準備を整えることが出来たのだがな。困ったものだ。
「あの、ご主人様」
俺が悩みながら歩いていると、ベルが服を引っ張ってくる。
「どうした?」
「これ……よければ、売ってお金にしてください」
言いながら、ベルは青く輝く綺麗な石を俺に手渡してきた。
「これは……」
「さっき……歩いてる途中で拾いました。すごく、綺麗だったので……売ればお金になるかなって……」
どうやら【アイテム拾い】の効果が発動したらしい。
「確かにそうだが、本当に俺が貰っていいのか?」
「は、はい、私は……石よりもお肉が好きなので……」
なるほど。それなら問題はないな。
「分かった。では、ありがたくいただこう。でかしたぞベル」
「えへへ……」
「よしよし。お金を稼いだら美味しい肉を買ってやるからな」
「ふ、ふへへぇ……!」
ベルはこれ以上ないくらい顔を綻ばせながら喜んでいた。
「……だが野菜も食べろ」
「あぅ……」
――その後、俺はベルを連れて雑貨屋に入る。
「いらっしゃい!」
髭を生やした壮年の店主と交渉し、ベルから貰った鉱石を売りさばく。
ちなみに、スキルで【鑑定】したところ、600イース(¥$)相当のサファイア鉱石であることが判明した。
ちなみに、鉱石を鑑定せずに売り捌くと一律で10¥$になる。気を付けよう。
「……おい、おっさん。最近、何か困っていることはないか?」
「あ? おっさんだとクソガキ! てめぇさっきから口の利き方がなってねぇぞ!」
「悪気はないんだ。許してくれおっさん」
「だからそれをやめろっつってんだよッ!」
仲良く談笑しながら400¥$で数本の松明と火打ちの魔石を購入すると、店主はこんなことを話し始めた。
「……チッ。お前も知ってんだろ? 夜になると墓地から這い出してくるっていうアンデッドどもの話はよぉ。奴ら、家の中まで入って来ないんだが、外に出てると集団で襲ってきやがるんだ。お陰で誰もこの街に寄り付かなくなって商売上がったりだぜ! 退治してくれんなら、それなりの報酬を支払ってやるよ!」
これは、エルクエにおいて大抵の冒険者が最初に受けるであろう「アンデッド退治」の依頼だ。これをこなしておくだけで、序盤の進行がかなり楽になるのである。
「分かった。俺に任せておけ」
「おいおい、マジかよ。てめぇらみてぇなガキが……?」
「待て。確かにベルはそうかもしれないが、俺はガキじゃない。観光客だ」
「…………? いや、大して変わんねぇよ。むしろ、獣人の嬢ちゃんの方がまだ大人に見えるぜ? 兄ちゃん、友達いねぇだろ?」
失礼な。
「……そんな話はどうでもいい。とにかく、アンデッドは俺が退治してやる。報酬の用意をしておけ」
「あ、逃げたな」
かくして、俺達は雑貨屋を後にするのだった。
「ひどい人ですっ! ご主人様はこんなに立派で素敵なのに……子供扱いだなんて!」
すると、ずっと俯いていたベルが顔を真っ赤にして言った。どうやら怒っているらしい。
「あまり悪く言ってやるな、ベル。きっとそういうお年頃なんだ」
「お、お年頃? うぅ……よく分からないけど……ご主人様がそういうなら……許します……」
「よしよし、ベルは偉いな」
「えへへ……」
俺が頭を軽くなでてやると、ベルは機嫌を直してくれた。
「……夜まで時間を潰そう。行きたい場所があったら教えてくれ」
「ご主人様と一緒なら、どこでも幸せです!」
「………………やれやれ」
――結局、街の外を散歩して時間を潰すことになった。スキル【旅の経験】の効果で、ベルのレベルが1上がった。
*
そして深夜。
俺達は街の外れにある問題の墓地へ張り込んでいた。
茂みの中でしばらく待っていれば、アンデッド達が土中から出現するはずだ。
「いいか、ベル。アンデッドがここを通り過ぎたら、後ろからそいつらに向かって松明を投げつけるんだ。二人がかりでやれば、簡単に殲滅できる」
「が、がんばります!」
奴らはレベルの割に足が遅いので、少し距離をとっていれば遠隔から一方的に攻撃することが可能だ。
背後から松明を投げて燃やすのが、このクエストのセオリーなのである。
「ゔぁあああああ、あぁ」
「ご、ご主人様……で、出てきました……!」
ベルは耳を折りたたみながら、涙目で俺にそう告げる。
「どれどれ……」
視界が暗すぎてよく見えないが、墓地の中心あたりに無数の影が蠢いているのが見えた。
「……よし、じきにここを通り過ぎるはずだ。それまでは我慢するんだぞ」
「こ、怖いです……っ」
全身をぶるぶると震わせながら、俺に擦り寄ってくるベル。
正面から攻撃を仕掛けると、失敗する可能性があるからな。どうにか耐えてもらう必要がある。
「チいサい、オンナのコの、ニオイがするなあああ、あああああ」
「ケタケタケタケタッ! 食っタ、あとの皮ハ、オレに寄こセ! 着ル!」
俺たちが息を殺して身を潜めていると、アンデッドの群れが呻き声やら骨の音やらを発しながらゆっくりと通り過ぎていく。
ざっと見たところ、ゾンビとスケルトンが半々ずつといった所か。
「モグモグ、したいなあああああ」
「女のコの皮、欲しイ!」
思っていたものとは別種の怖さを
「うぅぅっ……ぅぅぅっ……」
ベルは真っ青な顔をしながら、息を潜めている。
「…………よし、今だベル。行くぞ」
「は、はい」
やがて、アンデッド達が全員通り過ぎたのを確認した俺は、火打ちの魔石を使って松明に火をつけ、茂みから飛び出した。
「とうっ!」
そして、のろのろと移動するアンデッド達の背中に向かって、勢いよく松明を投げつける。
「ぎゃああああああああああああッ!」
すると、集団の中心にいたゾンビに火がついて激しく燃え上がり、周囲が明るく照らされた。
「え、えいっ!」
ベルは俺に続いて松明を投げつけ、混乱しているアンデッドどもの集団を更に炎上させる。
「ギャアあああああああああああ!」
「グおおおおおおおおおおおおお!」
「ヤメテクレえええええええええええッ!」
炎に焼かれたアンデッド達の悲鳴が墓地に響き渡った。
「……おっさん、聞こえますか? オレ達から貴方への
俺は夜空をキャンパスにして雑貨屋の店主の顔を思い浮かべる。「死んでねぇよクソガキ」と言われた気がした。
「す、すごいですご主人様! まさか、本当にアンデッドをやっつけられちゃうなんて……!」
アンデッドどもは全員レベル7相当。そいつらを複数体焼き払ったことによって大量の経験値が入り、俺とベルは大幅にレベルアップする。
「よく頑張ったな、ベル。今日は宿屋に戻って休もう」
「あの……」
「どうしたんだ?」
「ご、ご主人様と一緒のベッドがいいです……っ!」
「やれやれ、そんなに怖かったのか? ……仕方がないな」
俺はそんなやり取りをしながら、ベルを連れて街の宿屋に帰るのだった。
*ステータス*
【マシロ】
種族:異界人 性別:男 職業:観光客
Lv.10
HP:68/68 MP:33/33
腕力:14 耐久:13 知力:11 精神:14 器用:13
スキル:鑑定、値切り、旅の経験、収納
魔法:クリーン、トリート、トーチ
耐性:なし
【ベル】
種族:獣人 性別:女 職業:なし
Lv.10
HP:102/102 MP:24/24
腕力:23 耐久:18 知力:12 精神:10 器用:15
スキル:アイテム拾い、突進、罠探知
魔法:なし
耐性:なし
所持金:200¥$
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