第10話 伯爵令嬢
「高位貴族のお坊ちゃんを落とすには教養は必要よ」
お母さんは私に家庭教師をつけてくれた。でも週に一回だけだからまったく勉強にならない。お祖父様からもらったお金ではそれしかできないとお母さんは言っていた。
「わたくしが次にくるまでにわたくしからの課題をやっていただかなくてはお勉強は進みませんわ」
自分の教え方が下手なくせに私のせいにするやなおばさんだった。笑顔の練習や扇の練習やお茶の練習で忙しいのよ。お茶がお水なのはムカつくけど本館のペイジ伯母様もお茶はたまにだというからしょうがないわ。
でも三年が過ぎて私が十歳の頃にガーリー伯父様がお母様に命令した。
「とっとと再婚しろ。でなければお前が働くなりするんだな。俺の秘書でもかわまん。とにかくこれ以上ただ飯を食わせていく余裕はない」
今まで働いたことがないお母さんがいくら兄とはいえ子爵の秘書などできるわけないからお母さんはガーリー伯父様からの見合いの話を受け入れた。そして結婚が決まるまでの間は乳離れした従姉弟の乳母をすることになって伯父様は乳母を雇う金が私達の生活費だと言っている。
そのお金で家庭教師など雇えるわけがないから私は自分で本を読むことくらいしかできなくなった。お母さんは朝から本館へ行ってしまうので一人で読める本を読んだりたった一人で庭で遊んだりした。
時々お母さんが私に男の人を会わせに来ると私はわざと近くに行って相手が私に触るように仕向ける。頭にその人とのことが浮かぶのだけどいつもお母様が泣いていたり私が泣いていたり私がいやなことをされたりすることばかりだった。
そうやって何度か繰り返しているとある日とても優しそうな男の人が紹介された。私がその人に触れるとその人と私くらいの女の子と私達四人で笑っている姿が浮かんだ。
とてもステキな男の子の姿も浮かんだ。
『まるで夢みたい! 彼は私の王子様だわ』
私は直感的に感じたの。
夜になりお母様に今日浮かんだことを話したらあっという間にお母様の再婚が決まる。
そして私はダリアナ・マクナイト伯爵令嬢、十二歳になる。
お父様のお屋敷はあまり記憶がないけれどマクナイト伯爵邸は侯爵であったお父様のお屋敷と同じくらい大きいと思う。とにかくゲラティル子爵邸とはものすごぉく差がある。
「やっと本物のお嬢様に戻れたわ。今日からはお母さんじゃなくてお母様って呼ばなくちゃ。自分のことも『わたくし』に変えなくちゃね」
わたくしは真っ白できれいなお屋敷を見上げて美しいと言われる笑顔を作った。いっぱい練習したのだからきっと上手にできているわ。
新しいお義父様とお義姉様はとても優しい人たちだった。お義父様を触ったときに見たような笑顔でお茶をする私達。お義父様はあまりスキンシップをとる方ではなかったので次の私達の姿を浮かばせることができないでいた。
それにしても優しいお二人ではあるけれどいつも難しい話ばかりで全く楽しくない。お天気が悪いってお話のはずなのにいつの間にか小麦がなんとかとかほおさくがなんとかとか…。ほおさくって何?
十二歳の今日まで九歳の絵本を読んでいた私には二人が何の話をしているのかさっぱりわからなかった。お母様にそれを言ったらお母様もわからないと言っていたからあの二人の話がおかしいってことよね。
気になるのはわたくしの王子様のことよ。一月たっても私の夢の王子様は現れなかった。
お義姉様の元には婚約者だという男の子がいつも来ているらしいけどわたくしには関係ないわ。
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