第11話 王子様

 あんなつまらない話をするクラリッサお義姉様に頻繁に会いにくる男の子には全く興味がわかなかった。それも毎回応接室か図書室かつまらないお義姉様のお部屋だなんて。二人とも頭がおかしいのだと思った。


 だけどたまたま二階の階段から偶然その男の子が帰るところを見かけてびっくりしたわ。だってわたくしの夢の王子様だったんだから。お母様にすぐに相談して次に来たときにはお義姉様に紹介してもらおうと決めた。


 まずは伯爵令嬢らしい格好をしなくちゃ。お母様が『最初からたくさんは強請ってはダメ』というから私はまだドレスを五枚しか買ってもらっていないしパーティー用じゃないからいまいち地味なのよね。


「クラリッサお義姉様。わたくし、今度新しいドレスを買っていただくのですけど今どのようなドレスが流行りかわかりませんの。お義姉様のドレスを見せていただけますか?」


「いいですわよ。でもわたくしもお母様が儚くなってから新調していないから仕立て屋さんに聞いた方がよいのではなくて?」


『はかな??? なんとかって何? 仕立て屋を呼びたいけどそれを待っていたらあんたの婚約者が来ちゃうじゃないの!

私のドレスはパーティー用じゃないからしかたないでしょ!』


 嫌なら嫌と言えばいいのに難しくいうお義姉様にイライラするわ。イライラを隠すように笑ってクローゼットを開く。地味なお義姉様らしいドレスが多かったけどいくつかはわたくしに似合いそうなものもあった。

 そして一番奥に一際素敵なドレスを見つけたの。


「わあ! ステキ! お義姉様、これくださいな」


「え? それはお母様と最後に仕立てた…」


 お義姉様が何かブツブツ言ったけどわたくしはそれを引っ張り出して鏡の前に立つ。


『わたくしのためのドレスとしか思えないわ』


 ベースは薄紅色だけどわたくしの髪の色のレースがふんだんに使われている。上部には金糸と銀糸で豪華な刺繍がされていて動くとキラキラ輝くの。


「お義姉様。わたくしはこういうドレスをひとつも持っていないの。こんなにわたくしに似合うのですもの! くださるでしょう?」


 お義姉様は泣きそうな顔で頷かない。


『なんなのよ。これだけたくさんあるのだからいいじゃない』


「わかりましたわ…。お義姉様がわたくしをよく思っていらっしゃらないことは知っていましたもの。子爵家から何ももってこれなかったわたくしを馬鹿にしていらっしゃるのでしょう…。わたくしだってこういうドレスがほしかっ…」


 ドレスを抱きしめて泣き真似をする。先に泣いているように見せた方が勝ちなのに泣くのを耐えるなんて馬鹿なお義姉様ね。


「ダリアナ! ごめんなさい。そんなつもりはないのよ。いいわ。貴女がそれを気に入ったのなら差し上げるわ」


「お義姉様! 本当ですか? うれしい! お母様にこれに合う髪型を相談してきます」


 わたくしはお義姉様にやっぱりダメと言われる前に部屋を出た。 


 紹介してもらう日はすぐにやってきた。前日から入念にお肌をケアして鏡の前で微笑の確認をしてドレスに合う髪型を決めて準備万端!

 紹介してもらうって言ってもお義姉様には何も言わないわ。だってあんなにかっこいい婚約者なのよ。美人のわたくしに紹介したいわけないもの。

 すでにほとんどのメイドはお母様のいいなりの者になったからお母様の指示で二人を温室へ行かせた。

 逢瀬なのよ。温室やサロンの方がいいに決まってるわ。私は自信を持って温室へ向かった。元はお義姉様のドレスなのだけど私の方が似合うからドレスも喜んでいるわね。

 

「お義姉様。こちらにいらっしゃいましたの?」


 お義姉様に私一番の笑顔で声をかけると私の声で振り向いた王子様はすごく驚いたようで急に立ち上がった。


 私の美しさにびっくりしてるのだわ。これが私達の運命の出逢いになるのよ。


「ふふふふ」


 王子様のあまりの素直な行動に嬉しくなった。


 危機感のないお馬鹿なお義姉様はすぐに私を紹介してくれたから私はとっておきの微笑で挨拶をした後小首を傾げて愛称呼びのお願いをした。これで落ちない男の子は今まで一人もいないわ。


 だけどなぜかそれは拒否された。


『現実の王子様は照れて拗ねているのね。とてもかわいいわ。ボブバージル様にとっても今はまだお義姉様を立てておくべき時ですものね』


 わたくしは心の広い女だからボブバージル様とそうなる時まで我慢できるわ。

 

「そうですのね。わかりましたわ。

わたくしもお茶をご一緒してよろしいかしら?」

 

 ボブバージル様はすっと立ち上がって私が座る椅子を引いてくれた。


『さすがに公爵令息様っ! ステキだわ』


 子爵領の学校にいたムサイ男の子たちとはすべてが違う。気品がり優雅な立ち振舞で見惚れる容姿、すべてが極上だった。


「どうぞ」


 こうして現実の王子様を紹介されて三人でお茶をすることになった。

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