第245話 フィーア肥え太る秋(秋ではない) ⑭

「んー、おいしー!」

「俺は流石に、作るのはともかく食べるのは遠慮しておきたいな……」

「つくるのはいいの?」

「そこは逆に楽しくなってきた、作業を効率化するのって……楽しいよな」

「魔術の研鑽と似てるから?」

「ああ!」


 力強く頷いてから、はえーみたいなフィーア表情でスプーンを加えるフィーアを見る。

 今日も今日とて、フィーアはカレーを食べていた。

 そんなフィーアだが、正直カレーを食べ始めてからそこまで見た目は変わっていない。

 なんかちょーっとふっくらしているかな?

 していないかな?

 というくらいのふわふわ感。

 もともと細いくらいなのだ。

 多少ふわっとしたくらいで、周りの人間が気づかないのも無理はない。

 でも、今のフィーアは間違いなく、ぷにっとしているんだよ。

 本人だって気づいていないかもしれないけど、指摘したら気づいてしまうくらいには、ぷにっとしてるんだよ。


「……ハイムくん、どうしたの? いつになく真剣な顔でこっち見て」

「ええと、なんていうことはないんだが……」


 本当に、なんてことはない。

 ちょっと指摘してしまえばいい。

 原因は俺だ、フィーアをここまで甘やかしてしまった俺だ。

 責任を取るべきは、俺だ。

 そんな状況で、しかし俺は葛藤していた。

 指摘したことで悲しむフィーアを見たくない、という気持ちはある。

 このまま誰にも気づかないように、運動量とか増やして改善する方向に進めてもいいんじゃないかという気持ちもある。

 だがそれ以上に、なんというか、アレなのだ。


「変なことを言うんだが……今日もフィーアが可愛いと思って」

「……うぇえ、恥ずかしいよなんなのもー」


 ちょっと顔を赤くして視線をそらす。

 少し、肉付きの良いフィーア。



 普通に、かわいい。



 だって、アレだぞ?

 なんというか、ギャップがあるのだ。

 フィーアは基本可愛い系で、スレンダーだ。

 というか、ここまで食べないと変化が出ない体質でもある。

 貴重なのだ。

 こういうフィーアは、そうそう見れるものではない。

 どころか、指摘したら一生見れなくなるかもしれない。

 そう思うと、俺は、俺は――


 ……いや。

 だめだ。

 食べ過ぎは健康に悪い、俺みたいな魔術師は特に食べ過ぎ注意とよく言われる。

 いくらフィーアが普段から健康的な生活を送っていて、食べても体型がそこまで変わらないタイプだとしても。

 俺のワガママで、フィーアを肥え太らせるわけにはいかない。

 だから俺は――


「だから聞いてくれ、フィーア」

「どうしたの?」


 真剣な表情で、真実を告げる。



「実は……最近のフィーアは、食べ過ぎで少しぷにっとしてきてる気がするんだ」

「え? 知ってるよ?」



 そして、何気ない様子でそう返された。

 あれえ?


 ―

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