第244話 フィーア肥え太る秋(秋ではない) ⑬

 フィーアは健啖家だ。

 ごはんはいっぱい食べるタイプだ。

 そんなフィーアだから、毎日の食事量が増えてもそこまで気にするということはない。

 ただなんというか、普段から意識して食べるわけでもない。

 もともと、学園で食べる料理以外は王宮のシェフがいい感じにバランスよく料理しているのだろう。

 だから普段の食事量も、一般的な女子学生のそれとそこまで違いはなかった。

 普段から体を作るために食事量を意図的に増やしているカミア皇女のほうが、傍目から見たら健啖家に見えるだろう。


 タガが外れたときに、フィーアのほうが食べすぎてしまうというだけで。

 しかもそれを、本人は全く苦にしないというだけで。


 不思議なのは、タガが外れていなければきちんと食事量を調整できるところだ。

 俺のカレーを食べない時は、そこまで食事量が増えない。

 というかいつも通りである。

 このあたりは、なんというか本人も気づかないうちに習慣づけられているのだろうか。

 だからこそ、多少暴飲暴食に走っても、基本的にフィーアは変化がないのだろう。


 だからまぁ、グオリエの呪本騒動が始まったあたりからは、なんとか理由をつけてフィーアをカレーから離そうとした。

 作る時間がなかったり、そもそもフィーア自身が合わせるおかずを用意できなかったりした時。

 用意しないようにして、フィーアの食事量を減らそうとしたのである。


 それ自体は、そこそこ上手く行っていた。

 だが、少し手遅れだったのだろう。

 フィーアの中ではカレーが完全にルーチンと化していたし、その都度めちゃくちゃ食べていた。

 もう既に、呪本騒動が収まった頃には後戻りできないところまで来ていたのである。


 いや、一見変化はなかった。

 なにせあの呪本騒動の最中、誰もフィーアの変化に気づかなかったのだから。

 特に、決着の場には師匠も姿を見せたというのに。

 正直、変化としてはそれくらい些細だった。

 カミア皇女も、ラーゲンディア殿下も。

 言うまでもなく、グオリエの野郎だって。

 誰一人としてフィーアの変化に気づくことはなく。

 毎日顔を合わせていた俺だけが、なんとなく気づいていた。

 非常に、というか、とても言葉にしにくいのだが――



 フィーアはぷにっていた、すこしだけ、ほんとーに、すこしだけ。



 でも、多分本人が気づいたら死ぬほど気にするくらい、ぷにっていた。


 ―

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