第241話 フィーア肥え太る秋(秋ではない) ⑩

 ――と、ここまでが前フリ。

 というか、ここで終わっていればそれでよかったな、と後々思い返すやつ。

 自体は、なんというかこれで終わらなかったのだ。


「――私、もっとハイムくんの手料理が食べたい」

「だから、カレー以外のレパートリーがないんだって」

「カレーだけでもいい! 一生ハイムくんのカレーでも、私は生きていける!」

「俺は無理だ、流石に3日連続はあきる」

「でもでもでもでもー!」


 フィーアのわがままが始まったのだ。

 両手を振り上げて、でもでもと繰り返している。

 こうなったフィーアは止まらない。

 いや、こうなったフィーアも可愛いのだけど、いつまでも眺めているわけには行かない。

 そうだな、と少し考える。


「……まぁ、フィーアの分だけを作るなら、問題ないぞ」

「ほんと!? いやでも、それは悪くない?」

「そんなことはない。というか、これまで朝食はフィーアの手料理を二人で食べることが多かっただろ。今まで作ってもらってきたんだから、その恩を返さないと」

「な、なるほど?」


 真面目な話。

 これまで俺は作ってもらってばかりだったのだ。

 それを、こうして返す機会があるならそれに越したことはない。


「いやでも、それは私も食べるからで……」

「別に問題ないさ、自分で食べたくなった時は自分の分も作るから」

「ハイムくん、空いてる時間はずっと魔術の研究してたいタイプでしょ? ハイムくんの時間を邪魔しちゃ悪いし……」

「ある程度は、気分転換の時間もあったほうが効率いいんだよ」


 これは実際その通りで。

 昨日と一昨日で、カレー作りに時間を割いて気持ちをリフレッシュしたことで。

 それ以外の行動もむしろ効率的になったくらいだ。

 もともと、集中できない時は筋トレとか掃除とかしてたしな。

 それがカレー作りになったと思えば、なんてことはない。


「んー、んー、んー……」

「食べたいって言い出したのは、フィーアじゃないか」

「いやだって、本当にワガママが通るとは思ってなかったんだもん」


 あくまで、じゃれつくためにワガママを言ってる感じだもんな、フィーアのそれって。

 受け入れてもらえるかどうかは二の次で、ワガママを言う事自体が目的というか。

 今回みたいに、俺の負担になりそうなことが実現しそうになると、少しためらうのがフィーアである。

 が、それはそれとしてワガママが通るなら、通してしまえってタイプでもある。


「……でも、作ってくれるなら、私は食べたいな」

「わかった、明日から作ってくるよ」

「えーと、材料費とかいる?」

「流石にそこまで困窮してない」


 かくして、継続的にフィーアの昼食を俺が作ることが決定した。

 この時は、まぁ流石に数日もカレーだけ食べてたら飽きるだろ、とか思っていたのだが。

 それが甘かったと悟るのは、もう少ししてからのこと。


 ―

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