第240話 フィーア肥え太る秋(秋ではない)⑨

「おはずかしいところをおみせしました」

「いやまぁ、可愛かったし……」

「ううううううう、明日からは朝食抜きません……」

「そっか……」


 よかった……

 いやどうなんだろう、よかったんだよな?

 まぁよかったんだろう。

 よかった……


「でもね、ハイムくんの料理が美味しかったのは本当だよ」

「ほとんど空腹と、高めに高めたハードルのせいじゃないか?」

「それはあります。でもそれ以上に大好きな人の手料理が美味しすぎたのもあります」

「幸福感でなんかおかしくなっちゃったか……」


 先日、一口カレーを食べた時は、別にここまでフィーアもおかしくなってなかったのだ。

 おかしくなってしまったのは、その後。

 一日おいたことで、俺の手料理を食べれるという感情がフィーアの中で膨れ上がってしまった。

 結果として、ここまで色々とおかしくなってしまったのだ。

 なんというか……俺もそれに少し当てられていたけれど。

 料理自体はあてられる前に作れてよかったな。

 自分の中でハードル上げまくって、無数の材料を無駄にしていたかもしれない。


「味はどうだった?」

「昨日よりおいしー気がする、昨日と同じ気もする」

「つまり普通ってことだなぁ」

「普通ってことだねぇ、美味しかったです」


 味に関しては、まぁ何も言うことはない。

 普通に美味しいものを作って、普通に食べた。

 それだけだ。


「あ、でもねでもね、ちょっと辛くしたでしょ」

「まあ、昨日とは使うルーは変えたな」


 カレールーを変えても味は同じようなものだけど、辛さは結構違うと思う。


「フィーアに合う辛さにしたよ」

「よくわかったね」

「普段から、フィーアが何食ってるかは見てるからな」

「なんか恥ずかしいね」


 さっきのフィーアの妄言じゃないけど。

 一緒に暮らすっていうのは、まぁそういうものなんじゃないかなー、と思う。

 まだ俺達はただの恋人で、それ以上の関係ではないけれど。

 普段から一緒に行動していれば、自然と相手の好みもおぼえるというか。


「えへへ、なんか嬉しい」

「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ」


 少しだけ、気恥ずかしそうにはにかむフィーア。

 その顔を見れただけでも、こうして料理を作ったかいがあったというものだな。

 かくして、俺の初めての手料理は、なんだかよくわからないアホみたいなノリとほんの少しの幸福感で幕を閉じるのだった。


 ―

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