第238話 フィーア肥え太る秋(秋ではない) ⑦

 自分たちがあそこでイチャコラしているときは、気配を察知する魔術を使って警戒しているのだが。

 他人のイチャコラに遭遇してしまうのは想定外だった。

 まぁ、人気がない場所だから、こっそり会うには都合がいいんだろうなぁ。

 貴族の学校で自由恋愛というのは、なかなかハードルが高いものなのだ。

 俺達はそんなに気にされていないけど、これは俺(平民)とフィーア(格が低いということになっている貴族)の恋愛だから誰も気にしていないだけ。

 あと、一応ひと目は気にしてるからな。

 さて、そんなことはおいておいて。

 今は、昼食だ。


 フィーアは、学内のプライベートスペースである資料室にて神妙な面持ちで待機している。

 しかもステラフィアモードになっている、ここが資料室でなければなにかの儀式みたいだ。


「フィーア様、どうぞ」

「うむ、苦しゅうない」


 なので思わず名前に様がついた。

 貴族なので平民は敬わなければ……

 そしてフィーアはノリで返した。

 もはやここまで色々あって、お互い冷静ではない。

 二人して、めちゃくちゃアホやってる自覚はあるのだ。

 ストラ教授はこちらに同情してくれたけど、限界をフィーアに委ねてる時点で俺も同罪である。

 結果として、なんか楽しくなってきてしまった以上。

 もはや、俺達のアホはとどまるところを知らない。


「本日のランチは、昨日の夜に使ったカレーの残りでございます」

「よろしい、出しなさい」


 なんとなくふんぞり返り始めたフィーアの前に、保存魔術のかかった容器からカレーを取り出す。

 温かいカレーをそのまま保存できるので、保存魔術は便利だ。

 ちなみに開発したのはかのフィオルディア陛下である。

 偉大すぎる。


「おお、これが……」

「お熱いうちにお召し上がりください」


 内容はカレーライスだ、非常にシンプル。

 特に言うことはないので、俺は普通にフィーアの横に座って食べ始める。

 フィーアはもはや完全にカレー以外目に入っていないようなので、そろそろ普通にしてもいいだろうという判断。

 さて、フィーアの感想は――


「…………」


 ゆっくりとスプーンでカレーをすくって、それをしげしげとフィーアは眺める。

 どこか、感動を覚えているかのようだ。

 向かい合うフィーアとカレー。

 迫りくる運命の時。


 そして――


「……も、もったいない!」

「いや早く食べたほうがいいだろ、冷めるぞ」

「で、でもー!」


 フィーアはためらった。

 ええい、もうここまで来たらさっさと食べなさいって!

 ぶっちゃけイチャコラを眺めたあたりから、冷静さを欠いて空腹も忘れてるだろ。

 と、思いつつフィーアを促して。


「う、うう――」


 パクリ、フィーアがカレーに食いついた。

 そして――


 ―

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