第237話 フィーア肥え太る秋(秋ではない) ⑥

 そして、昼。

 ついにその時はやってきた。

 三限は別の講義だったので一度別れたのだが、その後四限で合流した時が酷かった。

 なんというか、フィーアは正気を失っているが外面は保っているのだ。

 端から見れば少し地味な美少女貴族でしかない。

 そのうえで、見る人が見ればひどいことになっていると分かる感じ。

 さっき、ストラ教授が通りかかって真面目に大丈夫か聞いていた。

 カレーを食べるために耐えていると知った瞬間に、なんかこう、とてつもなく残念なものを見る目で見た後こっちになぜか「すまんの」といって去っていった。

 何だったんだ。


 三限は、俺がいないのもよくなかったのだろう。 

 フィーアの中のマナがすべて枯渇したかのような、覇気の無さ。

 四限は同じ講義だったので、なんとか耐えきれたようだが。

 ともかく、そんな試練を乗り越えて。

 ついに、昼がやってきた。


「おーーーーひーーーーーるーーーーー!」


 人がいないのを確認してから、フィーアは叫んだ。

 ガチで叫んだ。

 伸びをするような開放感あふれるポーズで、喜びを表現している。


「お昼だよ、ハイムくん!」

「そうだなぁ」

「楽しみだね、ハイムくん!」

「ああ」

「さぁ急ごう、ハイムくん!」


 楽しげな、そしてどこか必死そうなフィーア。

 力強く俺の手を握っている。

 そのまま駆け出していきそうだが、なんとか耐えているらしい。


「あああああもう我慢できないよおおおおお!」


 そして我慢できなかったらしい。

 俺はフィーアに手を引っ張られ、風になった。

 昼飯がこぼれないように死守しないと。

 もしそうなったら、フィーアは本当に終わってしまいかねない。


「私はね、今日ほど自分が生まれてきたことを感謝して呪った日はないよ!」

「呪ったのか……」

「感謝はいつもしてるからね!」


 毎日が楽しそうだからなぁ、とにかく幸せそうなのがフィーアのいいところだ。

 俺も見ていて楽しい。


「でも、もう迷わない! 私はお昼を食べる! そのために未来へ進む!」

「すごくかっこいいことを言っている気がする」

「ビシッ!」


 手を前に突き出して、魔術を使う時のポーズを取る。

 まぁ、俺を引っ張りながら走っている状態でそのポーズをとっても、そこまでかっこよくはないのだが。

 それは言わないお約束。


「よーし、ついた!」

「はぁ、結構疲れたな」

「運動不足じゃない?」

「かもな」


 別にそんなことはないだろうが、何も考えずに言って何も考えずに返された言葉にこれ以上の反応は不要だ。

 さっさと昼飯を広げよう、と思ったところで。

 フィーアの足が止まる。


「……どうしたんだ?」

「え、ええっと」


 そう言って、普段二人で昼食を食べているスポットを指差すフィーア。

 そこには――



「イチャコラ」

「イチャコラ」



 めっちゃイチャコラしている男女の生徒がいた。

 ああ、先客でしたか……。

 フィーアが、普段のイチャコラを思い出しているのか顔を真っ赤にしている。


「……資料室、いこっか」

「そうだな」


 結局、昼食は誰にも邪魔されない場所で食べることになった。


 ―

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