第235話 フィーア肥え太る秋(秋ではない)④

 まぁ、そんな王女命令で手料理をつくるとして。

 レパートリーが何も無いのは本当だ。

 結果、作る料理は自然とカレーになった。

 2日連続でカレーである。

 美味しいので、問題はないが。

 作り方に違いなんてものはない。

 いや、なんかちょっと昨日より人参が硬いような……まぁいいか……


「ふふふふふ、ふふふふふふふ、ふふふふふ」

「フィーア、なんか怖いぞ」

「楽しみに、楽しみに押しつぶされそうだよー!」


 その日は朝からフィーアはテンションが高かった。

 いつもの数倍くらい高いせいで、なんか怪しい人になっている。

 フィーアが美少女でよかった。


「しかもアレだよ? 朝ご飯も食べてないよ?」

「いやそれで、昼まで持つのか……?」

「むしろ持たないほうが、昼に至福が待っています!」


 今日は朝の雑用がない日だったから、フィーアは朝飯を俺と食べることができなかった。

 だったら朝は普通に食べてくればいいじゃないかと思ったのに、抜いてきてしまったらしい。

 大丈夫か? フィーアってかなり食べる方だったよな?

 不安が募る。


「まだ講義までは時間があるんだし、ちょっとくらい食べても……」

「駄目です! 私は耐えます! 命をとして、この半日を耐えきって見せる……!」


 王女が戦場でもないのに空腹に耐えるのは、多分王国始まって以来のことだと思うぞ……。

 前代未聞だよ、こんなの。


「知らないからな? 俺は止めたからな? 後で恨んでくれるなよ?」

「それはないよー、私、ハイムくんのこと大好きだもん。たとえ殺されても恨まないよ」

「なんでそんないきなり、とてつもなく重い発言をするんだ」


 洒落にならないから、聞かれても困るし聞かされても困る。

 いや嬉しいですけどね? ありがたいですけどね?

 流石にどういうシチュエーションだよ、という感情のほうが先にくる。


「ちなみに、食べようと思ってたお菓子を食べられたら?」

「その時は……ハイムくんを殺して私も死ぬしかないね?」

「怖いよ普通に恨んでるだろ、その上で殺したことに耐えられてないだろ」

「ふふふふふ……」


 なんで昏い笑みを浮かべるんだよ!


「……ちなみに、似合ってないぞその笑い方」

「ええー!? なんで!?」


 いやだって、本人は真面目にしようとしてるのに、なんかゆるいんだもの。

 なんかこう、少し頭身が下がってる気がするんだもの……。

 ともあれ、こうしてフィーアの断食が始まったのだった。

 大丈夫かなぁ。


 ―

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