第233話 フィーア肥え太る秋(秋ではない) ②

「――味は普通だね!」

「そうだな、としか言えない」


 可もなく不可もない、本当に普通のカレーだからな。

 料理上手のフィーアが作れば、もっと美味しいものができるだろう。

 いやどうだ? カレーなんて基本どれも同じだし。

 よっぽど気合い入れて作らないと、そこまで違いはないんじゃないか。


「私のカレーもこんな感じだよー、やっぱ普通に作ったらカレーの味は普通に美味しいで収束するね」

「だよなぁ。人生で何度かカレーは作ってるけど、同じ味にしかなった覚えがない」


 昨今の魔導技術の発展は、まぁ色々と俺達の生活を豊かにし。

 食生活もまた豊かになった。

 その中で生まれたカレールーは、誰が作ってもカレーを美味しく作れるようにした。

 結果、カレーは一般の家庭の定番料理まで成り上がったわけだ。


「わかる、わかるよー、そりゃあ野菜が固くて食べにくいとか、肉が安いとかあるかもしれないけどさ。カレールーはみんないっしょだもん。そしてカレーは味が濃いもん」

「さすが料理上手、わかってらっしゃる」

「庶民の料理もそこそこくわしいのですー」


 えへん、と胸を張って見せるフィーア。

 露骨に頭を撫でてほしそうなので撫で――ようとして、フィーアの方から突撃された。

 王女様の頭が俺の手に迫ってくる――!

 その調子で自分から撫でられて、髪の毛のセットとか大丈夫なんだろうか、俺はくわしくないんだけど。


「……髪の毛が、髪の毛が大変なことになったよハイムくん!」

「何も考えてなかったのか……」

「イチャイチャしたい! 欲求があふれる! 私は止まらないよ!」


 言いながら、魔術で熱と風を生み出して髪の毛を整えるフィーア。

 せっかくなので俺も魔術で空間を反転させることで、鏡を生み出した。


「……それ、どうやってるの?」

「空間魔術を下級の上級化したものだ。覚えると色々楽だぞ」

「専門家レベルの高等テクニックで髪を整えさせてもらってる!?」


 下級、中級、上級と存在する魔術の等級。

 そこから更に、下級魔術の効果に上級魔術の効果を上乗せさせる高等技術。

 この学校で空間魔術の下級の上級化を使える人間は、多分俺を含めて数人いるかどうかだな。


「相変わらずだなぁ。でも私はありがたく利用させていただくのでした。カレーも美味しかったよ」

「別にいいって」


 髪を整え終わって、深々とお辞儀をするフィーア。

 何となく俺も釣られてお辞儀をしてから、顔を上げると。

 いつになくフィーアが真剣な顔をしていた。

 すわ、真面目な話か――と思わなくもないが。

 どう考えても、そういう流れではないだろう。


「と、こ、ろ、で」

「はい」

「ハイムくんの手料理! もっと食べたい!!」


 ですよね。


 ―

【発売まであと6日】

 本作「隣の席の王女様、俺の前だけ甘々カノジョ」の書籍版が12/20日に発売となります。

 様々な改稿を加えて、より甘く、よりフィーアが可愛くなっています。

 ぜひお手にとって見てください!


 また、この作品をフォローしていただくと、発売日前にお知らせのメッセージが届きます。

 こちらには特別なSSもついてきますので、ぜひぜひこの作品をフォローしていただきますと幸いです。


 書籍化特設ページもあります。

 こちらの方も御覧ください!

https://kakuyomu.jp/publication/entry/9784040757223

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る