第232話 フィーア肥え太る秋(秋ではない)①
それは、何気ない昼の出来事だった。
その日フィーアが忙しいということで、俺は一人で昼食を取っていたんだ。
貴族だから家の用事――フィーアの場合は公務だな――というものがあるし。
何より、魔導学園は単位制だから講義が被らないこともある。
そういう時は、一人で飯を食べることもある。
「かなしいよー! さみしいよー!」
と人気のない場所で一人で食事を取っているフィーアを見かけたことがあるが、恋人がいるのに一人で取る食事というのは確かに味気ない。
なお、この時はそれを見られたフィーアがそのまま逃げ出して、一緒に食べることはなかった。
見られて恥ずかしいならやらなければいいのに……
さて、そんな昼下がり、俺はその日珍しく自分で料理したカレーを食べていた。
夕飯の残りである。
基本的に料理は面倒な俺だが、こうして手料理を作ることもなくはない。
特に昨日は久々に興が乗ってしまって、朝飯だけで食べきれず昼まで残ってしまったくらいだ。
ちなみに保存は専用の魔術がある、便利だな。
味? 味は普通。
んで、そんなカレーの最後の一口を食べようとした時だ。
不意に気配がした。
俺がいる場所は人気がなく、落ち着いて食べるには最適な場所。
ここを知っているのは、それこそフィーアくらいなもので――
そして、そこで気配がするということは。
言うまでもなく。
そこにはフィーアがいるということだ、目を見開いて口から涎が垂れている。
ちょっと目が血走っている。
怖い。
「……フィ、フィーア?」
「ハイムクン」
木陰から、俺を覗き込んでいるフィーア。
その状態で、横にスライドするように移動して。
そのまますり足で迫ってくる。
怖い。
「ソレナニ」
「ええと、カレーだが」
「……ダレガ、ツクッタノ」
「………………俺だが」
正直、言ったらどうなることかと思ったが。
フィーアは何も言わない。
ただ、こちらをじいっと見つめてくる。
ただただ、見開いた目でじいいいいいいいいっと。
じいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっっと。
「…………」
「…………」
しばらく、にらみ合いが続く。
いや、フィーアの言わんとしていることはわかるのだが。
気圧されてしまった。
貴族の通う学校で毎日色々と圧を感じているにもかかわらず、だ。
今のフィーアにはそれ以上の圧があった。
そして、最終的に俺はなんとか気を取り直し。
「……食べるか?」
なんとかその一言を絞り出す。
答えは言うまでもない。
「食べる――――――――――――!!!!!!!」
満面の笑みでこちらに飛びかかってくるフィーアであった。
―
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