第229話 フィーア③

「うー、うー……」


 フィーアは突然のフリに、色々と考えているようだ。

 ついでに、まだ恥ずかしさが抜けないのか顔を真赤にしている。

 大変愛くるしい。


「まずは……海!」

「海?」

「そう、帝国にね、王族専用のプライベートビーチがあるんだって。夏休みにどうかって、カミアから招待されてるんだよ!」


 ちなみに、ラーゲンディア殿下もくるらしい。

 なんというか、俺が行かないと婚約者同士の逢引についてくるフィーアみたいになりそうだ。

 まぁ、俺も行っていいなら、同行させてもらいたいが。


「海ってのは、なかなか興味深いな。近くに港もあるなら、大陸の外の魔術書とか入ってきてるかもしれん」

「すぐに魔術師目線で考える! まぁ港もありますけど!」


 理由を口にすると、フィーアは不満そうに唇を尖らせた。


「後はクラブ対抗戦! こっちなら私が出てもいいからね!」

「他は来賓枠で座ってなきゃ行けないからな」

「身体うごかしたーいー! ハイムくんもどう?」

「クラブ対抗戦は魔術禁止だから、俺じゃ勝てないよ」


 剣術大会は身体強化使用可能だから、まぁ行けなくはないかも知れないが。

 たとえば殿下を相手にして、もう一度勝てるかって言うと疑問だぞ。

 魔術ありなら負けるつもりはない。


「文化祭もあるしー、生徒会活動とかもやってみたい! カミアが生徒会長になりそうだから、その書紀とか!」

「他国の人間が生徒会長って、いいのか?」

「他に適任もいないしね、たまにならそういうこともあるみたい」


 ……騎士団の方での俺の扱いによっては、俺が会長を任される未来もありそうだな。

 妥当なとこだと副会長とか? ありそうだ。

 正直、気乗りはしないがフィーアも参加するなら話は別だ。


「他にも、色々やってみたい! 旅行とか、バイトとか……そうだ、冒険者とか!」

「流石にそれは危険だからって許しがでないんじゃないか?」

「ハイムくんがいれば別かもよー?」


 なんか、普通にありそうで困る。

 傭兵団の伝を頼ったりしそうだ。


「うーん、あれもこれもって考えてたら止まらなくなっちゃう。楽しみだね、ハイムくん!」

「そうだな」


 そこは、素直に頷くしかない。

 これから、いろいろなことが俺達を待っているんだろう。

 楽しみなこともあれば、不安なこともある。

 でも、どれもきっと有意義なもので、意味のあるものだ。


「……でも、三年しかないんだな」


 ふと、フィーアは立ち止まって空を見上げながら言った。

 あの時を思い出すような、星と月明かりの空。

 月光に照らされたフィーアは、少しだけ寂しそうに。

 けれども美しい顔を覗かせながら、こちらを見た。



「三年で、”フィーア”は消えちゃうんだ」



 学園を卒業すれば、フィーア・カラットはいなくなる。

 ステラフィア・マギパステルだけが残されて。

 今、俺の眼の前にいる少女は、ステラフィアの一部になってしまうのだ――

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