第227話 フィーア①

 師匠は、これからのことについて少しだけ語って去っていった。

 グオリエについては、やはり軟禁生活となるようだ。

 生かさず殺さず、というと言い方は悪いが、まぁ生命があっただけでも幸いと言う他ない。


 そして俺も、今回の件で色々と今後の目処が立ちそうだ。

 呪本の解呪に無詠唱魔術。

 どちらもグオリエがやったことをお手本にしたというのがなんともアレな話だが。

 この世界では歴史上類を見ない功績であることに違いはない。

 呪本の解呪に関しては経緯が経緯なので、すぐに公表することはできないが。

 そもそも俺はまだ学生だ。

 学生生活が終わるまでの間は、猶予期間という奴でそもそも公開しないほうがいいだろうという話だった。


 フィーアと一緒になるためという理由はあれど、平民にとってはあまりにも重い将来だ。

 学生の間くらい、気楽に過ごしてもいいだろうという話。

 そこら辺は、フィーアが身分を隠して学生生活を送っているのと同じだな。


「んー、なんというか」


 そうして師匠とも別れて、俺達は二人きりになった。

 二人の時間を大切に、ただしまだ手を出すんじゃないとは師匠の談。

 後者は余計だ。


「まさかこんなに早く、いろんなことに目処が立つとは思わなかったね」

「そうだな。……最初から陛下には赦されていたとは言え、世間が俺を認めるにはあまりにもハードルが高かったから」


 一体何から手を付ければいいんだ? という話。

 本来なら、もっといろいろなところで信頼関係を築いて、足場を固めていく必要があっただろう。

 まさか、こんなにもあっさり将来の王に臣として認められることになるとは思わなかったけれど。


 ……いや、あっさりではないな。

 殿下との決闘も、呪本の解呪も、死闘だった。


「振り返ってみると、綱渡りだったなぁ……」

「ホントだよ! もう、こんな無茶はしないでよね」

「無茶をしないで済むように、殿下やホーキンス殿と国を動かしてくんだろう、俺は」

「わわ……ハイムくんそれっぽいこと言ってる!」


 それっぽいってなんだよ。

 事実だろ、事実。

 まぁ、そうやってこれが事実だと認識すると、なんだか実感がわかないけれど。


「それに、今はそんな真面目な未来のことを考えないで、今のことを考えよ?」

「今は不真面目でいいのか」

「学生だもの、羽目を外さない程度には不真面目じゃないと!」


 そう言って、フィーアは少し前に出ると振り返って笑みを浮かべた。


「もうすぐ夏だよ、ハイムくん。夏になったら何がしたい?」


 ああ、そういえば。

 俺達がフィーアの秘密を知ってから、まだ二ヶ月程度しか経っていない。

 季節は春と夏の境目。

 もうすぐ、夏が来るんだ。

 そのことに、俺はたった今気がついた。

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