第226話 師匠と母親⑥
「ステラフィアはおとなしい子だけど、可愛い子だったんだ。ああ、親の贔屓目とかじゃなくて」
「愛嬌がある子だった、ってことか?」
そうそう、と頷きながら師匠はフィーアを手招きする。
フィーアはそれにトコトコと寄っていくと、師匠はフィーアの頭をなでて、フィーアは嬉しそうに目を細めた。
「ちょっと気恥ずかしいなぁ、やめてよお母様。ハイムくんだって見てるのに」
「ほら、愛嬌があるでしょ?」
「なるほど」
「二人共ー?」
気持ちよさそうに撫でられる子犬のようにしながら、むっとした様子のフィーア。
確かにこれは、愛嬌があると言われて頷かない人間はいない。
「こんなに愛嬌があって、誰からも好かれるような子が、誰にも知られないなんてもったいないと思わない? ステラフィアはもっと愛されるべきだよ」
「そのための、キッカケが欲しかったのか?」
「そう。王宮はステラフィアにとって居心地の悪い居場所ではなかったけど、気安くステラフィアと対等な関係を築ける相手はいなかった」
カミアちゃんは、他国の姫だしね。
と師匠がいいつつ。
「人って、周囲との関係を作れるかは環境次第だと思うわけよ、ステラフィアにとって一番それが向いてると思ったのが、傭兵団だったわけ」
「そこで俺に出会った、と」
「ま、流石にあそこまでピッタリハマる相手がいるとは思わなかったけどね」
流石に、そこは偶然だよな。
師匠が俺を鍛えようと思ったのは、俺が師匠の無茶振りに応えられたことが大きいだろう。
あの時、俺が筆記魔術を習得できたから。
そこから、全ては始まったんだ。
「んー、私の人生が撫でられてる間に深堀りされている気がする……」
「ステラフィアは、今の自分に不満はある?」
「ないよー、色々と困った人もいるけど。その分、ハイムくんと仲良くなれたし……
私に良くしてくれる人は、みんな優しい人だもん」
クラスの連中とグオリエ。
何事も、うまく行かないことはあるけれど。
バイト先のおばちゃんや、剣術クラブの人々、良くしてくれる人もいる。
「なら安心だ。ステラフィアが幸せなら、私も嬉しいよ」
「うん。ありがとね、お母様」
「そして――ハイム」
フィーアを慈愛の笑みで撫でる師匠。
そして、俺の方を見て。
「改めて、娘のことをよろしくね」
「ああ、もちろんだ」
そういった。
それを観て、恥ずかしそうにフィーアが俺と師匠を見ている。
「二人共なんなの!? 私は不束者ですがー、とか言わなきゃだめ!?」
なんて言って、頬を膨らませてから。
「……ふふ」
そうして、三人で笑い出す。
俺と、師匠。
フィーアと、母親。
三人の初めてではない――けれど、ある意味始めての邂逅。
穏やかな時間が、夜闇を照らす月の下で流れていった。
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