第225話 師匠と母親⑤
マナを体内に取り込まない魔術の無詠唱発動。
これまで、誰一人として成功してこなかったことだ。
俺だって研究はしていたが、つい先程まではできなかった芸当だ。
なぜそれが可能になったのか。
よいお手本が、眼の前にいたからだ。
「グオリエの呪本が生み出した怪物、あいつが使っていたビームは無詠唱の魔術だったんだ」
「そうなの?」
「ああ、原理としては単純で、体内にマナを取り込んでからそれを魔術に加工してたんだよ」
やっていることは、身体強化魔術と変わらない。
方法事態は、仮説として提唱されていた。
ただ、体内でマナを魔術に加工すると、加工した物が体内に生成されてしまうという問題が会った。
たとえばさっき使った樹木を生やす魔術なら、加工した時点で俺の身体の中から樹木が生えてきてしまう。
まぁ、そのまま即死するよな。
そして、即死しないから治癒魔術とか身体強化魔術は無詠唱で使えるのだ。
「魔物は、加工するマナを加工しないマナで”包んで”からマナを加工してたんだ。それで、加工されたマナを解き放つことで、体外で魔術にしていた」
「……それ、危険じゃない?」
「そうでもないよ、マナで包んだ時点でその状態は変化しなくなるから、中でどんな魔術を加工しても包んだマナが壊れることはない」
「あー、なんだ? とにかく安全性が保証されてるならいいんじゃない?」
魔術に関しては、おそらく身体強化魔術以外は素人だろう師匠が、そうまとめる。
実際、コレに関してはその通りで、安全性は保証されてるけどそのことを周りに伝えるのなかなか難しいのだ。
とにかく今は、これまでできなかった無詠唱魔術ができるようになる、とだけ解ればそれでよい。
「まぁ、まだまだ課題は多いけどな」
「すごいじゃん、ハイムくん!」
俺の手を取って、嬉しそうに跳ねるフィーア。
俺も、なんだか嬉しくなって笑みを浮かべる。
「いや、実際すごいね、ハイム」
「師匠……」
「ソレがあれば、呪本の件と合わせて、功績としては十分すぎるくらいじゃない?」
「……!」
その言葉に、フィーアの目が見開かれる。
そして、その顔が少しだけ恥ずかしそうに紅潮した。
「ちょ、ちょっとお母様! そーいうのあけすけに言わないでよ!」
「いいじゃないか、元々フィーアとハイムが付き合ってるのは知ってるわけだし」
「というか……そうなるよう仕向けたのは師匠ですよね?」
「ん? まぁ、そうなればいいな、とは思ってたけど」
一体、それはいつからだったのか。
ともあれ。
「なんにしたって、おめでとうハイム。アンタはこれから、フィーアと同じ道をきっと歩ける」
先達が、そう保証してくれるのは。
なんというか、望外の喜びであった。
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