第223話 師匠と母親③

 将姫アストラ――俺の師匠。

 こうして、再び再開した時。

 数年ぶりに見た彼女は、確かにフィーアの母親だった。

 顔立ちは元々、フィーアは父親に近い顔立ちをしている。

 師匠と似ている部分も確かにあるけれど、俺がフィーアと師匠の繋がりを感じたのはそこではない。


 笑みだ。

 浮かべた笑みが、確かに二人を親子だと感じさせるものだった。

 雰囲気、と言い換えてもいいかもしれない。


「ステラフィアとは、何度も顔を合わせてるけど、ハイムと顔を合わせるのは何年ぶりかな?」

「ええと……どうだったかな。結構会ってないからな」

「薄情だなぁ、あんだけ色々と教えてあげたのに!」

「ほぼ全部、剣の修業だったじゃないか。俺は魔術師なんだよ、師匠」


 かつての厳しい訓練の数々を思い出して、俺は苦笑する。


「でも、でしょう?」

「……まぁ、そうだけど」


 しかし、そう言われたら否定できないのが現状だ。

 グオリエとの一件もそうだが、殿下との決闘だってそうだ。

 戦うことに対する慣れ、それがなかったら魔術師畑の人間がこうして大立ち回りできなかっただろう。


「お母様! ハイムくんはすごかったよ! 最後なんて、あの怪物を正面から倒しちゃったんだから!」

「もちろん解ってるさ、ステラフィア。遠くからだけど見てたんだから。……不意打ちビームは肝を冷やしたけどね」

「それは……まぁ、私もそう思うけど」


 そこはなんというか、フィーアは解ってくれると思っていたんだが。

 まぁ、その分心配させてしまったということだろう。

 こちらを見るフィーアの目は、そういう心配と怒りの混じった目をしている。

 それに関しては、申し訳ないというほかない。


「それにしても……どうしてお母様がここに?」

「まぁそうだね……色々と言いたいことはあるけど」


 師匠は、少し考え込むようにして。


「まずは、おめでとうハイム。今回の件、無事に解決できたのは君が頑張ったからだ」

「それは……多くの人の協力を得られたからでもあるけど……」

「こういう時は、素直に受け取っておくべきだね、ハイム」

「まぁ、そうだよな。ありがとう師匠」


 素直に、師匠は俺を労ってくれた。

 師匠に労われて、俺も嬉しくなる。

 なんだかんだ言って、この人には多くの恩がある。

 それに少しでも、報いれた気分だ。


 そのうえで、師匠はあるものを俺に放り投げた。

 俺はそれを手にする。

 投げられたのは……木剣だ。


「私の本題はこれだよ、ハイム」

「……まさか」


 そして、師匠の手にも木剣が握られている。

 俺とフィーアは二人で顔を見合わせて、そして師匠を見た。


「私と一手、仕合ってみないかい?」


 そうして師匠の口から飛び出た言葉は、実に彼女らしいものだった。

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