第219話 対決⑪

 爆炎が魔物を焼く。

 制御していなければ、学園を丸ごとふきとばせる威力の魔術だ。

 それを一極集中でビームを正面からかき消せるように解き放った。

 ビームはもちろん、魔物本体までどうにかできるのが最良だが、どうなるかは炎がきえなければ解らない。


 俺は魔術を解き放ってすぐに、魔物から距離を取る。

 フィーアの隣に並び立ち、視線を合わせた。


「大丈夫だった?」

「問題ないさ、この程度」


 そして炎が消えると、そこにはうずくまるように倒れ込む魔物の姿があった。

 明らかに弱っているのがわかる。

 全身が影でできているそいつの顔が、どのような表情をしているのかはここからだと伺えないが、どちらにせよ苦痛を感じているだろうことは確かだ。


「倒したデスか?」

「……いや、まだだ。倒れたならば奴は姿を維持できない!」


 カミア皇女の言葉に、殿下が応える。

 同時に、魔物が咆哮しながらこちらに突っ込んでくる。


”――――!!!!”


 この場にマナはない、俺達はもう魔術が使えないのだ。

 奴はこの状況で俺の魔術を耐えれば勝機はあると解っていた。

 だが、実際に耐えれる保証はない。

 耐えた後の勝機は、あくまで保険でしか無いだろう。


 それでも、このままでは俺達は負ける。

 魔物の狙いは、間違いなくフィーアだ。

 彼女の持つ剣を壊せば、自分を縛る制約が全て失われ、奴は全力を出すことができる。

 だからこそ、


「――お前は、剣を狙わなくちゃいけない。隣に俺がいたとしても」

「ハイムくん! 受け取って!」

「ああ……!」


 フィーアが、俺に剣を手渡す。

 魔物の狙いは必然的に、俺へと移るが問題ない。

 これが最後の攻防になるからだ。


 確かに俺達は魔術が使えない。

 身体強化はまだ残っているが、身体強化だけでは魔物に太刀打ちできない。

 たとえ相手が弱っていても、だ。


 


 俺が収奪の杖でマナを奪えなかった場所。

 密閉しているが故に、マナが外に流れ出すことのなかった場所。

 そして、フィーアから手渡された場所。



 魔物が体内に閉じ込めたグオリエが。保管されている場所だ



「これで終わりだ、怪物。この剣はお前にとって逆転の鍵であり……敗北の原因でもある」

「そうだよ、グオリエ。この戦いはそもそも……貴方が身勝手に死を選ぼうとした時点で、決着がついていたんだ」


 なぜなら、それがグオリエの本質だから。

 その本質を俺達の前でさらしたから。


 魔物は突進してくる。

 だが、小型魔物も呼び出せず、ビームも使えない。

 そんな状態で、魔術を使える俺が負ける理由はない。

 剣から取り出したマナを使って、再び炎魔術を行使した俺は、突っ込んでくる魔物に正面から放つ。

 魔物がそれを回避した瞬間、回避する咆哮へ向かって強化魔術で強化された脚力でもって肉薄。



 再び剣を突き立てた。



”――――!!!!”


 魔物は、相当無茶をしていたのだろう。

 それによって受けた一撃で、ゆっくりとその形を保てず、崩れ去っていった。

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