第218話 対決⑩

 先ほど行った通り、不意をつくためのもの。

 連射、そんなものができたのか?

 いや、できたなら最初からやっているはず。

 つまり、無茶をしているのだ。

 このタイミングでのカウンターじみたビームには、それだけの価値があるのだから。


 この一瞬だけは、誰も対応ができない。

 殿下も、カミア皇女も、そしてフィーアも。

 俺に向けられたビームを防げない。

 この一瞬でさえなければ、誰だって対応ができる。

 何なら、師匠がこの場に現れなかったということは、師匠はどこかで待機しているはずだ。

 なんなら陛下だってそこにいるかもしれない。

 から、こうしてこの国の最高戦力である師匠と陛下が関わってきていないのだ。

 出し惜しんだ以上、万が一があったらそれを使うのが当然だ。

 でもそれも、この一瞬には意味がない。

 流石の師匠と陛下だって、この場に割って入ることはできないはずだ。


 詰んでいる。

 どうしようもない。

 俺はこのビームを躱せない。



 



「やっと――」


 魔物に対して、笑みを浮かべながら。

 俺はその瞬間。


「――隙を見せたな」


 刃の形に変えていた炎を、させた。


 途端、炎は周囲に広がって。

 術者である俺以外の全てを飲み込んで広がる。

 ビームすらも、魔物すらもだ。

 人間には当たらない。

 爆発の規模は制御しているし、当たらないように位置取りをしている。


 ――ここまで、魔物は隙と呼べる隙を見せてこなかった。

 攻撃を加えるタイミングはあった。

 だが、その攻撃は全て決定打ではなく、魔物に深手を負わせることはできていない。

 魔物は非常に慎重だったのだ。

 自身の手札を切るタイミングを、ギリギリまで渋り、常にこちらに対して余裕があるよう立ち回って。

 最後の切り札、ビームの連打を絶妙なタイミングで使おうとした。


 だが、だからこそ俺はその瞬間を待っていたのだ。

 悔しいことにグオリエのことを、俺はそれなりに理解できてしまったから。

 グオリエから生まれたこの魔物が、グオリエのような行動を取ると予想できてしまったのだ。


 グオリエは、いうなれば「型を押し付ける」人間だ。

 「こうあるべし」というあり方を他人に押し付ける。

 俺を攻撃するのも、平民は貴族に支配されるべきという考えから。

 フィーアを崇拝するのも、彼女の存在に「こうあってほしい」という願望を抱いたから。

 そして何より、自分の死をフィーアの功績にしようとしたのも。

 という考えを他人に押し付けたからだ。

 そんな人間から生まれた怪物が、べきだという考えを抱くのは不思議じゃないよな。


 だから俺は、その一瞬に切り札でカウンターを決めるのだ。

 さぁグオリエの怪物、お前はそうやって――押し付けた理想を跳ね返されて。

 一番望まない形で敗北するのがお似合いだ――!

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